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「雅美‥俺雅美の着物姿好きだよ。」
「えっ?あっ。ありがとうございます。」
改めて言われると何だか恥ずかしい。
顔が見えず無駄にコーンスープをかき混ぜている雅美に続ける。
「気品があって色気もあって綺麗だし、去年の舞も凄かったよね、皆雅美に釘付けだったもんな。」
去年は姉の代役だった。本来舞うはずではなかった雅美だが、当日捻挫した双子の姉、凪の代わりに舞を披露したのだ。
双子とあって2卵生とはいえ良く似た顔つきの2人だったため、誰も雅美だとは気づいてなかったが。
「あのときは必死だったので。」
「ぶっつけ本番とは思えなかったもんな、凄い舞台度胸、惚れなおしたもんな」
「やめてください。恥ずかしいです」
真っ赤になっている雅美が可愛くてたまらない。
「楽しみだな」
結人はサンドウィッチを口に頬張りながら浮かれた顔をしている。
「それより時間を気にしてください。まだ服も着ていないですし。。。」
何だかんだで7時半を回っている。
「大丈夫何もしなくても俺かっこいいから、でも雅美に嫌われたくないからちゃんとしないとね。」
結人は余裕っていう感じだ。
正式にモデルになってからの結人は学園時代より更にファンが増えてナルシストに磨きがかかっている。
自他ともに認めるルックスなので仕方のないことだ。それにファンが増えたことが自信にも繋がっているのだ。
実際はファンがどうとかより雅美が格好いいって思ってくれることが1番重要なことなので、結人は食事を食べ終えたら、ちゃんと身なりを整えるつもりでいる。
「全部美味しかったご馳走様」
きっちり手を合わせて食器を流しに運ぶ。
「ご馳走様。あっ片付けは僕がするので置いておいてください。」
食器を洗おうとしている結人に雅美が告げる。結人を気遣ってのことである。
「食べたら片付ける。ちゃんとしないとね。雅美のも俺がやるからほら」
「でも。。」
しぶっている雅美に焦れて結人は手を伸ばす。
「片付けくらいはさせてよ。俺料理できないし。これくらいはさせてよね」
「じゃあ。お願いします。」
申し訳なさそうな顔をしてる雅美。
結人は手早く後片付けを済ませる。
「おしまい。」
「ありがとうございます。」
「どういたしまして。さてと支度するか。」
昨夜のうちに用意しておいた服に着替えてサングラスと帽子をかぶる。
ラフな服装だが一般人が手を出すには高級な洋服だ。
次第にモデルとしての結人が作られていく。
雅美の目には結人が遠い人のように見えてくる。
その姿に少し寂しさを覚える。
何度見ても慣れない。
不安。
自分のことを好きだと言ってくれる結人がまるで別の人になってしまって、自分のことなんて不必要になってしまったかのような気分が拭えない。
ただその姿をじっと雅美は見つめていた。
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