海の見えるバス停で

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 小さい頃は両親の夏休みに家族四人で、この海に毎年のように遊びに来ていた。  大きくなると友達と予定を立ててこの海に遊びに来た。そして彼と二人で遊びに来たのもこの海だった。  バス停にあるベンチに座り、思い出の海を見ていた。  思い出すのに一区切りつくと、手持ち無沙汰になった。  スマホを見ようと思ったが、充電が怪しいので電源を落とす。  何かないかとカバンをあさるが文庫本はなく、あったのはおくすり手帳だけだった。仕方ないのでおくすり手帳のページをめくる。  最初のページからページをめくっていくと、具合が悪くなっていくのがわかる。5mgの薬が10mgに変わる。薬の種類も増えていく。荒れた胃を整える 胃薬も処方されている。  途中からページは白紙のままになった。  私がこの海に入って行ったからだ。  今の私にはもう薬は必要ない。思い出も増えることはない。  でもね、一人でいるのは寂しいの。  寂しい、寂しい、寂しい……。
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