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そんな嘆きを口にしながら、大和君は急にそわそわし始めて、落ち着かない様子を見せる。
彼は本当に思っていることしか口にしない人だけれど、そこに深い意味があるのかといえば、きっとそうじゃない。
綺麗だということも優しいということも、一般的に使われる御世辞だと分かっているのに、顔を真っ赤にしている彼を目の前にしたら、こっちまで本気にしてしまいそうになる。
「ありがとう。そんな風に言ってくれて、嬉しい……」
その気持ちだけは本心だから、私は笑顔でそう伝える。
心の動揺に悟られないように、余裕ある大人の女を演じたつもりだったが、そんな私を嘲るかのようにお腹からは容赦無く、グウ、と空腹を知らせる音が響いた。
「……」
「……」
きょとんと目を丸くする大和君に、恥ずかしさが轟々と込み上げてくる。
穴があったら入りたいくらいの気持ちになっていると、それを察した彼は自分のお腹を手で押さえ、柔らかな笑みを浮かべた。
「俺も、もうお腹ペコペコだよ。とりあえず、名前書いてくるね」
「あっ、うん……。っていうか、私も一緒に行くよ!」
優しさに甘えてばかりもいられないから、そう言って、我先にと先陣を切って階段を上がろうと踏み込む。
それにしても、私……さっきはどうして寂しいだなんて思ってしまったんだろう……。
大和君はいつだって私に、偽りのない優しさを向けてくれていて、今日だって沢山の幸せを振りまいてくれているのに。
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