雨の日の出会い

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ゆっくりと進み出した帰宅ラッシュの満員電車の中からは、外濠公園の堀に沿って咲いている桜がライトアップされているのが見えた。 そういえば、今週末が桜の見頃だと言っていたっけ……。 今日は夕方から雨が降ると朝の天気予報で言っていたが、どうやらまだ外は雨模様にはなっておらず、夜桜を楽しむ人で賑わっているのが遠目からでもよく分かる。 無意識のうちに凝らしていた視線を、窓の外から手元のスマホへ戻すと、トーク画面の下の方にあった諒ちゃんのアイコンを選択する。 今夜は残業せずに帰るので、もうすぐ家に着くよと連絡をしようとも思ったけれど、たまには驚いた彼の反応が見たくて、途中で手を止めた。 この分だと、夕飯は作り置きの惣菜類になってしまうから、予定通り何か美味しいスイーツでも買って帰ろう。 今の時間なら、まだ駅前の洋菓子屋は開いているだろうから、チョコケーキとフルーツタルトを一つずつ。 そんなことを考えていると、電車のアナウンスが最寄り駅への到着を知らせる。 ドア付近に立っていたので、人波に押し出されるようにして降車すると、そのまま流されるように駅の改札を出た。 抱えるように持っていた鞄を肩に掛け直して、やっと人混みから抜け出せた解放感から、大きく息を吐きながら夜空を見上げてみたけれど、暗闇でも分かるくらいに厚い雲に覆われている。 それでも、どうやら家に着くまで雨は持ち堪えそうだ。
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