雨の日の出会い

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目的の洋菓子屋に入ると、閉店間際ということもあってかショーケースに残っていたケーキは数少なかったけれど、欲しかったケーキは両方ともラスト一つずつあった。 諒ちゃんはチョコ以外のケーキは食べないから、良かった……。 「チョコレートケーキと、季節のフルーツタルトを一つずつ下さい。それから……」 そう言いかけて辺りを見渡すと、ショーケースの上に置かれていた籠には、数字の形をしたキャンドルが並んでいた。 私はそこから「3」と「5」の数字を一つずつ選んで、店員さんに手渡す。 明日……正確にはあと5時間後、私は35歳の誕生日を迎える。 子供の頃、35歳といえば自立した立派な大人で、幸せな家庭を築きながら、逞しく子育てをしているような、そんな漠然としたイメージを持っていた。 けれども実際は仕事に追われていて、長く付き合っている恋人がいても結婚なんて雰囲気は微塵もなくて、子供を産むなんて夢のまた夢の話だ。 結婚願望が強いわけではないけれど、周囲の友人たちが次々に結婚をして家庭を持ち、当たり前のように妊娠・出産と、人生の歩むべきステージを着実に進んでいるのをみていると、心のどこかで焦燥感を抱いているのも否めない。 そんな自分を、他人には気づかれないよう振る舞うことが、自尊心を傷つけないための術となっている。
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