雨の日の出会い

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白い小箱に詰められた、自分へのささやかな誕生日プレゼントを抱えて、家までの約10分のゆるい坂道を歩き始める。 最近はこの上り坂でさえ、息を切らさずにはいられないことに、確かな体力の衰えを感じてしまう。 定期的に運動でもしようと、張り切って購入したウォーキング用の靴は、買ったことに満足をして、それっきり姿を見ていない。 これはもう、35歳の新たな目標の一つにするべきだな、と。 次の健康診断までに5キロ痩せるという目標と同じくらい、達成するつもりもない口先だけの目標を心の中で掲げる。 そんな中、ちょうど中間地点でもある昔ながらの古びた公衆電話のボックスを通り過ぎたところで、昼間からずっと降り出しそうだった雨雲から、ついに大粒の雨が降り出した。 「……あと5分、待ってくれたら良かったのに」 そんな恨み言を空に向かって吐きながら、鞄の底から取り出した折り畳み傘をさしたけれど、僅かな間に雨脚は強くなり、私の衣服を容赦なく濡らした。 面倒だけれど、帰ったらまずはシャワーを浴びて着替えよう。 雨のせいで少しだけ憂鬱になったけれど、抱えていた小箱を濡れないように持ち直して歩き続けていると、間も無くマンションの入り口が見えてくる。 4階の角部屋を見上げると、リビングの明かりはついているから、諒ちゃんはもう帰宅しているようだ。 先に夕食を済ませて、今ごろはソファーに寝転びながらテレビを見ているか、ゲームに夢中といったところだろう。 マンションのエントランスで濡れた傘の滴を落としてから、部屋の鍵を用意して、エレベーターの呼び出しボタンを押した。
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