雨の日の出会い

7/24
前へ
/431ページ
次へ
玄関の見慣れない若い女性向けのヒール、普段は飲まないスパークリングワインと、二つのワイングラス。 浮気を疑うには十分すぎるほどの証拠だったけれど、まだ心のどこかでは彼を信じている愚かな自分がいる。 それでも覚悟を決めて、しっかりと一歩ずつ踏みしめながら部屋の扉まで近づき、あまり大きく響かないように力加減をして手背で軽くノックをした。 勿論、中から返事があるとは思えなかったが、私は諒ちゃんが中にいることを確信していたので、それを前提に話しかける。 「諒ちゃん……中に、いるよね?」 私の一言で、さっきまで耳に届いていた雑音は不自然なくらいにピタッと鳴り止み、殺伐とした静けさが漂い始める。 彼の返事を待つまでもなく、私は勝手に更に話を進める。 「……扉、開けてもいいよね?」 ここで、諒ちゃんが駄目だと言っても、私はドアノブを押す手を止めなかっただろう。 ゆっくりと開いた隙間から見えたのは、ベッドの上で一糸纏わぬ姿で絡んでいた男女の姿。 目が合った瞬間に、彼は焦ったように体を起こすけれど、それで目の当たりにした事実を揉み消せるわけではない。 「月乃……」 「諒ちゃん、何しているの……?」 何をしているのなんて、答えてもらうまでもなく一目瞭然だ。 誰がどう見たって、彼は私と暮らしている家で、私を何度も抱いたベッドで見知らぬ女性を抱いている。 ドラマでよくありがちな、こんな典型的な修羅場を、まさか自分が経験するなんて思いも寄らなかったな……。
/431ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2295人が本棚に入れています
本棚に追加