はじめてのデート

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「月ちゃん、そろそろ行く?」 「あっ、もう少しだけ待って。あと10分くらい……!」 あれだけ時間があったのに一体何をしていたのだと、諒ちゃんなら軽く咎めてきただろう。 しかし、私の言葉に対して、大和君の全く気にしていない風の柔らかな声が聞こえてきた。 「分かった。下で待っているから焦らずに来てね」 「うん……。ありがとう」 その声に、焦る気持ちが少しだけ和らいだ。 彼は優しい顔をして、そう言ってくれたに違いないから。 そして数分後、やっと満足のいくセットができて、私は急いで部屋の窓を閉めて戸の側に置いていたバッグを手に持った。 狭い階段で足を滑らせないように、壁に手を添えながらも下へ駆け降りると、玄関で靴紐を結び直していた大和君が私の足音に気づいて顔を上げる。 「……待たせてごめんね」 「ううん。気にしないで」 そう言って、私を一瞥した彼の手が僅かな間だけ止まったが、それ以上は何も言わずに、気まずそうに目が逸らされた。 どちらかといえば分かりやすい性格の、彼の不可解な行動が気になるところだが、今は私も下駄箱から履き慣れた靴を選んで取り出す。 通勤時にもよく使用している、歩き回っても疲れない踵の低いベージュのパンプスだ。 「どうかしたの……?」 玄関の戸を開き、私が出てくるのをそこで待ってくれている大和君は、こっちを見ながら何かを言いたそうにしていたので、そう問いかける。 すると、彼は慎重に言葉を選ぶようにして答えてくれる。 「いや……。月ちゃん、いつもと雰囲気が違うから……」
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