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言葉を選んでくれたようでも、彼の少し困ったようなぎこちない笑顔から、それが良い意味でないことが読み取れた。
どうやら、いつもと同じような服装のほうが良かったみたい……。
やけに張り切ってしまった自分が恥ずかしくて惨めで、こんな気持ちのまま出掛けられないから、腕時計を確認した。
次のバスには間に合わくなりそうだけれど、仕方ない……。
「……私、着替えてきたほうがいいね。少しだけ待っていて」
そのつもりで、玄関に戻ろうとする私の腕を、大和君が後ろから強く引き留めた。
「違う!そういう意味じゃないよ!」
「えっ……?」
振り向くと、彼はやっぱり困ったような表情を浮かべていたけれど、さっきのように、その目を逸らすことはなかった。
「その……凄く似合い過ぎていて、なんか……デートみたいでドキドキするってこと」
「……」
「変なこと言ってごめん!!さ、バスが来ちゃうから早く行こう!」
そう言って、私の手を引いてくれる彼の手は汗ばんでいたけれど、少しも嫌な気持ちにはならなかった。
彼の一挙一動は、いわゆる胸がむず痒いという初々しい感覚を思い出させてくれる。
流されやすい私が、社会人になってから付き合ってきたのは、諒ちゃんを含め、女性が喜ぶ言葉を積極的に口にできるような相手ばかりだったので、すっかり忘れかけていた感覚だ。
大和君とは、そういうのじゃないのに……。
家族として慕ってくれている彼に、こんな感情を抱くのは、どう考えても尋常でないのに。
でも、彼の言葉を、素直に嬉しいと思ってしまった。
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