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予定通りのバスに乗って駅へ出て、祖母のお気に入りの店が沢山ある銀座へと向かった。
休日の都心は多くの人で賑わっていて、大和君は常に私を気にしながら歩いてくれる。
「……俺は身につけてもらえるものがいいんだけど、芳恵さんってこだわりが強そうだから、どんなのがいいか難しいんだよね」
「そうだよね。気に入ったものは壊れるまで使い回すけれど、気に入らないものには手も触れないから。だから私、いつも形の残らないものにしちゃうもん」
誕生日当日にはスイートピーの花束を渡して、予定の合う近い日に食事や旅行を計画する。
祖母が話題にする、行きたい場所や食べたいものからリストアップして、毎年選んでいるのだ。
今年は、大和君と合同でサプライズをしようという話になったから、その計画は練っていないけれど、もし要望があればいつでも連れて行ってあげようと思っている。
「やっぱり、そのほうが無難なのかな……」
私の言葉に、大和君は歩くスピードを緩めて、悩ましげな横顔で空を仰ぎながら呟く。
そうは言っても、何も知らなかった子供の頃に、貯めたお小遣いで買ったハンカチや手袋を、祖母はくたくたになるまで大切に使ってくれていた覚えがあるから、もらった相手にもよるのかもしれない。
「……大和君が選んだものなら、何でも喜んでくれると思うよ」
「そうかな……?」
「だっておばあちゃん、大和君のこと大好きだもの」
そうでなかったら、幾らお世話になったからといって、一緒に住もうなんて提案するはずがない。
私にだって、それくらいのことは分かる。
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