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ナンの話から始まり、好きなカレーの種類や、最近見つけた美味しい和菓子屋の豆大福のことや、雑誌で紹介されていたお洒落なオープンカフェのことなど、大和君は色んな話を楽しげに聞かせてくれる。
華やかな銀座通りを横断して、築地方面へ歩いて10分ほど。
疲れているのも忘れてしまうくらいに夢中で話していると、彼はオレンジ色の外壁をした異彩を放つ建物の前で立ち止まった。
「ここの2階だよ」
そう言われて、彼が指差す場所を見上げてみたけれど、看板一つ出ていなくて、ここにカレー屋があるなんて普通は気づかないだろうと思った。
「どこから入るの?」
「裏手に階段があるんだ。狭くて急だから気をつけてね」
その言葉の通り、彼に連れられた先には、人ひとりが通るのが限界だと思われる、雑居ビルにありがちな幅狭く急な階段があった。
「店の中もめちゃくちゃ狭いから、すぐに入れるか見てくる。月ちゃんはここで待っていて」
私に無駄足をさせないように、そう言ってくれた大和君は、階段に足を踏み入れようとした瞬間に、何かに気づいたようでその場に踏み止まる。
どうしたのだろう……と。
細くて狭い階段を覗き込むと、上からは若い男性と女性の話し声と、二つの足音が近づいてきて、彼は道を譲るつもりで留まっていたのだなと、すぐに理解できた。
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