はじめてのデート

12/23
2286人が本棚に入れています
本棚に追加
/431ページ
ナンの話から始まり、好きなカレーの種類や、最近見つけた美味しい和菓子屋の豆大福のことや、雑誌で紹介されていたお洒落なオープンカフェのことなど、大和君は色んな話を楽しげに聞かせてくれる。 華やかな銀座通りを横断して、築地方面へ歩いて10分ほど。 疲れているのも忘れてしまうくらいに夢中で話していると、彼はオレンジ色の外壁をした異彩を放つ建物の前で立ち止まった。 「ここの2階だよ」 そう言われて、彼が指差す場所を見上げてみたけれど、看板一つ出ていなくて、ここにカレー屋があるなんて普通は気づかないだろうと思った。 「どこから入るの?」 「裏手に階段があるんだ。狭くて急だから気をつけてね」 その言葉の通り、彼に連れられた先には、人ひとりが通るのが限界だと思われる、雑居ビルにありがちな幅狭く急な階段があった。 「店の中もめちゃくちゃ狭いから、すぐに入れるか見てくる。月ちゃんはここで待っていて」 私に無駄足をさせないように、そう言ってくれた大和君は、階段に足を踏み入れようとした瞬間に、何かに気づいたようでその場に踏み止まる。 どうしたのだろう……と。 細くて狭い階段を覗き込むと、上からは若い男性と女性の話し声と、二つの足音が近づいてきて、彼は道を譲るつもりで留まっていたのだなと、すぐに理解できた。
/431ページ

最初のコメントを投稿しよう!