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もう一度人生を
薬というのは研究を重ね、何度も臨床試験を行い、安全性を確かめて、厚生労働省の審査を通ってはじめて認可されるんだ。そう簡単にホイホイできるわけじゃない。子供でも分かるぞそんなことは。
「みなさん疑った目をしてらっしゃいますが、この薬は本物です。ただし、正式な認可はまだ受けていません。そうです、これが臨床試験、というわけなんですね」
「話が違う!われわれは、少なくてもわたしはモルモットじゃない!」
さっきの年かさの男がそう怒鳴った。ほかのふたりの女も帰ろうとしている。俺は、もうどうしていいかわからず、ただ座っていた。
「お帰りになるのはかまいませんが、もう二度とチャンスはありませんよ?」
「俺、やる」
俺はそう言い切った。もうどうにでもしてくれ、というか何とかしてくれって気持ちでいっぱいだった。すると、他の三人も椅子に座り直した。どうやら俺と同じ気持ちだったみたいだ。
「素晴らしい。とてもいい判断です。あなたたちは歴史に名を残すでしょう」
そんなの残さんでいいから、俺にいい人生をくれよ。俺は切にそう願った。そうして開発部長の谷口という男はみなに水の入った紙コップと薬の錠剤を配った。見た目ふつうの風邪薬のような感じだ。いやマジこんなんで人生やり直せるのか?
「さあ一気に飲んでください。あ、噛まないでね。じゃあみなさん、いい人生を!」
俺は急に眠気におそわれた。
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