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今日の対局の結果が、明日から報道されるであろう事実でさえ恥ずかしいのに、その惨めな結果に追い打ちをかけるような今の状況。雨に濡れて救急車で運ばれるなんて恥ずかしいにも程がある。
「このままでは、本当に倒れてしまいます。私の家が目の前のマンションなので、何とかそこまで歩けそうですか?」
びしょ濡れで俯く匠は驚く。声を掛けてくれた女性は、匠の顔さえ見えていないだろう。雨のなか傘もささずに、うつむいて濡れ続ける和装姿の男性に、親切に声を掛けてくれる人がいるなんて……。
今まで近づいてくる女性は、何かしらの下心を感じていた。この女性は何を思って声を掛けてくれたのだろうか。匠が悪い男だったらどうするつもりなのだろう。危機感が足りないのか、お人好しなのか……。
でも、このままでいて騒ぎを起こすわけにもいかない。素直に甘えることにした。
「おねがいします」
「じゃあ手を」
匠が素直に差し出すと力いっぱい引っ張ってくれた。
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