盗られたマドレーヌ

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盗られたマドレーヌ

 忘れてた、これがなかったら私が持っていったってわからないじゃない。  それどころか怪しいと思って捨てられちゃうかも……。  ぱたぱたと道を走る女の子の手には、封筒が握られていた。  ピンク色の小さなそれには、はしにウサギのイラストが入っていてかわいらしい。  せっかくていねいに書いたのに。  まさか入れるのを忘れてくるなんて。  自分のうかつさを後悔しつつ、角を曲がって、目的の場所が近付いたのだけど。  目的の場所、その手前にある場所。  赤い大きな鳥居のそびえる神社だ。  入り口には、しめ縄のかかった大きな岩がある。  そこにひとが座っていた。  金髪に着物を着た、ちょっと不思議な若い男のひとだ。  どっかり腰掛けて、片足は岩にかけて、お行儀悪い座り方をしていた。  大学生くらいかな。  派手な髪なのに着物?  変わったひと……。  はじめはそのくらいに思った。  けれど直後、目を大きく見開くことになってしまう。  だって、その金髪のひとが腕に抱えていたもの。  中身を取り出しては、むしゃむしゃほおばっているもの。  それは……。
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