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上空を彩る二万発の花火の一部を職場の窓から観ていた。今年も、来年も君と観るつもりだった。
帰りの電車は花火を観に来た客でごった返している。
駅へ向かう歩道で浴衣を着たダサいカップルにぶつかる。小声で「すみません」と言ったものの、蕎麦屋の狸みたいな女に「痛ぁい」と甲高い声で喚かれる。そのどっしりボディーを支えきれなくなった下駄に踏まれてしまった僕の足の甲にも謝ってほしいと思う。
とりあえずレディーファーストに「お怪我はありませんでしたか?」と声を掛けると、男の方がイキって女の前に出て何かを言っている。何を言ってるんだか声小さくてよく聞こえないけれど、もう面倒だからその場を去った。
きっと君も隣にいる彼氏だか誰だかと花火を観に行き、どこかで食事をして、わざと終電を逃して、浴衣の帯をクルクルと解かれて、いつもとはちょっと違う気分でセックスをして、明日は日曜日だからどうでもよくて朝までダラダラと過ごす。残念ながら君は浴衣の着付けが出来ない、男もたぶん出来ない。幽霊みたいな気崩れた浴衣姿で翌朝の電車に乗り、見知らぬ人に「だっさ」って言われればいい。
花火大会=浴衣の君が僕以外の誰かと……そんなことで頭がいっぱいのくだらない僕は、尻に火薬を詰めて、何百発のスターマインの一部となって、隅田川に打ち上げられて木っ端微塵になってしまいたい。そんな気分だった。花火大会なんてクソ喰らえだ。
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