11.旅立ち

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11.旅立ち

夏忘れ 青空色のバックライトを背に いつか見たあの鳥のように 白い翼のごとく着物を広げ 大空を行く 九籐 千風 最終公演の出し物は、渡り鳥の物語。 この地から別の土地へ 旅立つにふさわしい舞台だ。 その夜も、千風は舞台の上から ファンたちから立ちのぼる熱狂を 不敵な笑みで見おろしていた。 満員御礼の舞台は クライマックスを迎えていた。 客席には、光の姿、 そして優美とその母親の顔も見える。 どの瞳もキラキラと輝いていて、 舞台の千風に釘付けだ。 「いつかまた会える」 廊下で客たちのドリンクを運んでいた萌子は 座敷から聞こえてきた千風の台詞に 足を止めた。 「いつかまたきっと」 もう一度、その声が聞こえてきた。 「いいよ、萌ちゃん、観に行ってきて」 すぐそばにいた母親が 萌子の顔を見るなりそう言った。 「最後の舞台、観たかったんでしょ」 「お母さん・・・」 「ここはお母さんに任せて、さあ、早く!」 「うん」 萌子は座敷に飛び込んだ。 そして舞台の一番前に駆け寄った。 千風と目が合うと、 千風の顔に満面の笑みが広がった。 「いつかまた会えるよな、俺たち!」 思わず千風の口からそんな 台詞がもれて、 観客が「わあ」と沸いた。 萌子は笑顔で頷いた。 青色のバックライトと まぶしく白いスポットライトが 千風の翼を照らすと、 鳥のように羽ばたいて 舞台のすそへと消えていった。 舞台のすそ? まさか! きっと大空だよ。 みんなの心の中で千風は 大空へ舞い上がったに違いない。
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