山頂の風に吹かれて

1/44
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
夏の名残り、ぽたぽたとしたたり落ちる汗。 九月半ば、強い日差しを受けながら、私はわりと急な山道を一人で登っていた。 荒い息を整えるために少し立ち止まる。ザックを肩から下ろし、中に入っている水筒を取り出し、喉を潤す。 あと半時間ほど歩けば山頂に到着するだろう。 それにしても暑い。 水は多めに持ってきたが、下山するころには空になるだろう。 私はスマホを取り出し、時間を確認する。 午後一時過ぎ。 順調だ。この暑さの中、悪くないペースで歩いていた。 私は四十過ぎの男性。 独身。 結婚はしたことがない。 どうも女性には縁がないようだ。 とはいえ仕事に人生の全てを捧げる人間でもない。職を転々とし、今は気楽な清掃員。 では趣味に情熱を傾けているのか。 残念ながら、そういう趣味もない。 唯一の趣味らしき趣味が今まさに実行している登山くらい。 登山といっても北アルプスや富士山など、大きな山には登ったことはない。テント泊や山小屋泊などもしたことはない。日帰りで登れる近場の低山がほとんどだった。 だいたい月に一、二回。気分転換の散歩の延長みたいなものだった。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!