38人が本棚に入れています
本棚に追加
「加々美さんとお知り合いなんですか?」
「あいつは俺のこれだからな」
長谷は小指を立ててにやにやする。大和は、情報が追い付かず目をぱちくりさせる。
再びドアが開き、噂の男が入ってくる。
「お疲れ様です。今戻りました」
加々美圭は、30後半のガタイのいい特殊警察官。背が高く、筋肉隆々で30代に差し掛かったばかりの見た目をしている。元刑事という手腕で主に暴力団関係の霊や、凶悪な犯罪歴を持つ霊の仕事を請け負うことが多い。
相棒でチワワの慎之介は、加々美の幼なじみで、よく筋トレをしている。
元気な鳴き声と共に出張から戻ってきた加々美は小指を立てる長谷を見るなり「また、しょうもないことを」とぼやき、長谷に絡むことなく自分のデスクへ一直線に向かった。
「おいおいつれえーな、加々美! 俺よりマルボウのけつおっかけてんのが好きなのか?」
「下品だぞ。ああ、春市君、堺君、これお土産」
北海道限定のお土産の紙袋は大和の手に渡ることなく長谷に奪われる。
「おっと、休憩には早いぜ。こっちは仕事できてんだ」
「一番浮かれてるお前がか?」
加々美はカレンダーを見ると「そうか、そんな時期か」と納得する。
「角野さんいねーなら、また出直すわ」
「当日の人員の配置か? それなら俺が聞く」
「そうしてくれるとこっちも手間が省けるぜ」
「堺君と春市君もおいで、お盆期間中のことだから」
堺は「今年も来ましたね」と重たく腰を上げる。加々美のデスクへ向かう大和の肩を長谷が組む。
「で? どうよ、俺の冗談。ちょっと疑ったか? 加々美と俺の関係」
「えっと……」
「やっぱり無理があるか。兄弟って設定はどうだ。いっそのこと、母親の若い再婚相手で、父と子でもいいな」
「どっちが父親なんですか?」
「もちろん俺よ。あいつが結婚できるような女うけのいい奴にみえるか?」
「とてもいい人ですよ」
「後輩にはよく慕われ、先輩にも一目置かれるやつだからな。そこは否定しねえな」
佐賀とも違う明るさで、初めて見るタイプだと、大和は悪い意味で感心してしまう。
「……」
「なによ。そんなに俺を見つめちゃって。惚れちゃった?」
加々美が、長谷の襟を掴み、引きはがす。
「お調子者はそこまでだ。仕事するぞ」
「あいよ」
長谷の表情が途端に変わる。白い歯をむき出しにしていた口はきゅっと結ばれしまりがよくなり、細くなっていた目はきりっと開かれ、まっすぐに仕事へ向いている。
「やっぱり惚れちゃった?」
跳ねるような声も落ち着き、大和は先ほどとは違う意味で見とれてしまう。
「明るくいかないとさ。幽霊見えるなんて体質で40年近く生きてらんないぜ」
この人も、幽霊が見えて苦労した人生を送ったのだと、大和は長谷へ一方歩み寄った。
最初のコメントを投稿しよう!