第一章 きゅうりと殺人と時々恋

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 日本の夏の行事「お盆」 本来の名は「盂蘭盆会」といい、現在では、先祖を自宅に迎え供養する行事になっていて、休み期間を利用して遠くの家族が規制するのが一般化している。お盆提灯やきゅうりやなすで作った牛馬など、お盆独自の飾りがある。 「そんなお盆にどんな仕事があるんですか?」 「きゅうりの取り締まりが難儀なんだな、これが」 「きゅうりって先祖が乗る乗り物ですよね?」 「そうだな。馬を模してある。牛の方はナスだったかな。精霊馬っつうやつよ」 「なるほど。子孫が作った乗り物に乗ってくるんですね。いい話じゃないですか」 「甘い僕ちゃんだな。みんながみんな精霊馬作りが上手いってわけじゃないのよ。そもそも馬の原型とどめてないのもある。車みたいにするやつもいる。低学年の夏休みの工作レベルさ! しかも夏休み終了間近のやっつけ。二輪もあれば三輪もあるし、四輪もある、タイヤが星形のやつもいるな。霊体だから人身事故はないんだが、送り火焚くまではそこに残るんだ。透けた精霊馬同士が重なって自分のがどこか分からなくなるやつがいるから、駐車の管理をするのが俺たち霊道機動隊だ。おもに霊道派出所に特別駐馬場(ちゅうばじょう)を作る」 「駐馬場……」 「俺が勝手に作った言葉だ。そこの警備に二人かしてほしい。全員と言いたいところだが、あんたらもこの時期は大変だろ」  首を傾げる大和に加々美が「悪霊が多くなるんだ」と顔を顰める。 「どうしてですか?」 「そらよ。初盆で久しぶりに親族家族に会うやつもいるわけだろ? いいことばかりじゃないさ。自分の悪口を聞く場合もあるし、嫌なことを知ることもある。そういうやつはたいてい来年の盆には精霊馬が迎えにきてもいかねえんだけど」 「そのまま恨みを募らせて悪霊になる霊もいるんだ。毎年何体かいて、諭して成仏させるときもあるけど手に負えないときには角野さんの命令で除霊したこともあった」 「だから、あんたら幽霊係も大忙しってわけ。角野さんの話だと佐賀さんと春市が来てくれるって聞いてるぜ」 「春市君は、今や即戦力なのにか?」 「初めてだから経験させたいんだとよ。当日西区の霊道派出所に来てもらっていいか?」  大和は返事をすると、長谷は「じゃ、頼んだ」と片手をあげて挨拶し、去っていった。 「……相変わらずのお調子者だな。仕事には熱心なんだが」 「加々美さん、お知り合いなんですよね?」 「同時期に特殊警察部に配属になったんだ。悪いやつではないんだけど」  加々美は困ったように笑うと、大和の肩をポンと叩く。 「元白バイ隊員だから、なかなかの適任だとは思うけどね。バイクと公務獣に乗っているときはかっこいいよ」 「公務獣なんですか?」 「チーター」 「目立ちそうですね」 「目立つよ。本人ともどもね」 「少し楽しみになってきました」 「夏は、心霊スポットにお盆に、祭囃子に誘われる妖怪諸々、大変だけどみんなで乗り切ろう」  特殊警察部の多忙樹と言われる夏が本格的に始まろうとしている。
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