第一章 きゅうりと殺人と時々恋

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 八月。  お盆直前、佐賀が「じゃーん!」と紙袋をたくさん持って現れる。 「ショッピングですか?」 「ちがうわよ! これ、私たちの新しい制服!」  全員が佐賀のデスクに集まる。  佐賀が新装された特殊警察部の活動服をお披露目する。ベストの部分は無線や札を入れれるようになっている。下のシャツは青と白の二種類。 「シャツのボタン、模様が入ってますね。これって……何かの陣ですか?」  堺が源次郎にボタンを見せる。元陰陽師の家元である狸は自慢げに鼻を掲げる。 「これは、霊力を記憶できる陣じゃ。召喚で相手霊力を使うときの前段階で使用する。逃走する霊にこれをあてることでそやつの霊力を記憶し、他の仲間に教えることができる。霊の痕跡をおう、霊痕捜査に役立つじゃろう」  源次郎と会話する堺を、大和は心配そうに眺める。 「なんですか」 「いや……」 「……確かに俺の両親は家督争いに巻き込まれて亡くなりましたが、先代であるゲンさんを恨んだりなんてしてませんよ。むしろ、恨むべきは、両親を陥れたやつと大蛇を復活させた人間です。本格的な捜査が始まったら、あなたには負けませんから」  堺は厳しい目で大和を見る。 「うん。協力して頑張ろうね」 と、大和は無理矢理堺の手を握った。堺も軽く握り返す。 「ふん」 「ねえ! 制服の説明続けていい?」  佐賀がすねた声を出す。 「次はね、これ!」  白い紐が二本、交互にグルグル巻かれ細い縄になっている。2本のうち一本にはお札のような文字が書いてある紐が編み込まれている。 「これを襷がけみたいに背中に巻くの!」  佐賀は手際よく自分に巻いていく。見た目以外どこもかわっていない。 「じつは、特殊手袋と同じなんだって! この2本のねじれ具合で何かの印になってて、体全体を特殊手袋で包んでるのと同じ状態になるらしいの! 」 「特殊手袋と同じってことは霊に触れられるってことですか?」 「そう! つっこんでくる霊を体全体で捕まえられる。今までは腕力勝負だったけど、これで技をかけられるわ!」  歓声が上がる。その中で大和は周りをキョロキョロ見渡した。 「そういえば、こういう時はどこからともなく近江さんがくるのにきませんね」 「あの人、電子顕微鏡で毛を観察してたわよ。私が制服紹介頼まれたの。自信作って伝えといてって」 「わしも、手伝ったぞ」  鼻をならす源次郎を、大和は撫でる。 「ありがとう、ゲンさん。早速着替えましょうか」 「公務獣たちにも、この縄あるからね!」  捕獲の効率が格段に上がった制服に、全員すぐ着替える。 「さて! これでがんがん捕まえるわよ!」 「それにしても、ここに来て制服新装なんてどうしたんだろうな」  いちばん大きなサイズを着ている加々美が肩を回しながら言う。 「きまってるじゃない。予算がおりたのよ。つまり、周りも認めだしたってことよ!」  佐賀が大和の方を笑顔で見る。 「みんなもだけど、ハルちゃんのおかげで私たちの部署の力が確固たるものになったわけだし!」  大和は服の具合を確かめる振りをした、少し赤く染った顔を背ける。 「俺一人じゃ無理でした。みなさんのおかげで今があるんです。これからもよろしくお願いします」  全員で強く頷く。大和もきたるお盆に向け、気を引き締めた。
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