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夢を見る。幼い頃の長谷が母親に睨み付けられている。ああ、母は僕が嫌いなんだと思ったところで目が覚めた。昔の傷跡がひどくいたんだ。カーテンから漏れる朝日に、目を細めて手を伸ばす。子供というのはわがままなものだ。そのわがままが母親には耐えられなかったのだ、と思う。事実中学生になって自分のことは自分で出来るようになった辺りから、母の折檻は止んだ。自分の時間を子供にとられるのも、子供の駄々に付き合うのも毛嫌いする人だった。その癖、父親の前ではコロリといい顔をする。母親には逆らえなくてうつむいていると、頭を撫でてくれた父の温かい手を思い出す。父は結局、最後までなにも知らないままだった。母が本当に父を愛してること、でも子供は例え愛してる人の子供でも別なこと、この二つは母の中で矛盾なく存在していた。母は無表情に、ただ物差しで俺を打った。俺は他の人の子供なんだとか、本当は別の母親がいるんだとか、めそめそ泣いてるときもあったが、大きくなってから戸籍を調べると正真正銘、父と母の一人息子だった。
今では時々愛する父を子供に取られるのが嫌だったんじゃないか、と思うときがある。そうしてそれは自分が父を母に取られるのが、嫌だっただけだと侮蔑する。
昼頃、ピンポンとチャイムがなった。インターホンに出ると永野だった。扉を開けると「こんちゃーっす。お昼のお寿司でーす。」とそそくさと部屋の中にはいってくる。結局俺たちはあれから付き合うことにしたのだ。
男は彼が始めてではない。昔にも一人付き合ったことがある。彼は海外赴任になって遠距離恋愛は自信がないと断ったのだ。そのはなしは永野も知っている。
「いなり寿司と~玉子とー鉄火巻き!さぁどれがいい!?」
「また食欲をそそらないラインナップだな…」
コップを出してお茶を注いでやると、永野はもう食べている。コップで頭を叩いておくと、「おっ先ー」と全然悪びれてない。
男同士の恋愛は新宿二丁目辺りに行けば堂々と過ごせるのだろうが、他のデートスポットはどれも人の目がある。どこぞの国では同性愛は死刑になったときいて、震え上がったものだ。
寿司を食べる。なにをするでもない。ずっとのんびりテレビを見てることもあるし、永野がゲームをして俺が本を読んでることもある。セックスするときもあればしないときもある。これといった決め事もなく、俺たちはのんびり付き合っていた。永野は俺の家に来たがって、余り自分の家に呼ぼうとしない。一度いったことがあるが、余りになにもないので、それ以来遠慮しているのだ。食器が一つずつと押し入れとベッド、無造作にそれしかなかった。
「永野に飯を頼むとなんだか味が偏るな…」
俺がそうぼやくと永野はえへへと笑う。別に誉めてない。
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