一生に一度のお願い

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一生に一度のお願い

あれから数日が経った 女装に使ったウィッグはまた奥に眠った あれ以来侑斗と少しぎこちなさが生まれた 少し肌寒くなってきた頃、 侑斗は風邪を拗らせ入院した 入院が思ったより長引いていて侑斗は大学に休学届けを出した 申し訳ないから部屋も出ると言われたが 申し訳なさからくる理由なら出て行かないで欲しいとお願いし、何とかそれは回避した でも今まで侑斗がいた家はどこか寂しくて 一人でいるのが嫌だった ガラガラガラ 「あ.... 航平」 「ゴホッ...」 「大丈夫か?」 「うん。まだ咳は治らないけどなんとか....」 俺は雑誌や小説などを持ってきた 「いろいろありがとう」 「気にすんな」 「少し痩せたか?」 「そうだね、熱がなかなか下がらなかったからその間は殆ど点滴だったからね...また筋肉落ちたかも」 「退院したらまた一緒に筋トレしよう」 「うん」 ガラガラガラ... 「あら、航平君。来てくれてたのね」 侑斗のお母さんが病室に入ってきた 「あ、こんにちは」 「じゃあ俺そろそろ行くから」 「うん、ありがとう」 侑斗が入院してもう3週間近くなる 病院のベッドで過ごす毎日はつまらないだろう 早く退院できたらいいのに 「(侑斗が退院したらどこかでかけよう)」 ... 航平は少しの時間でも来れる日は来てくれる それが毎日のつまらない病院生活での楽しみだった あの女装した日からお互いどこか気まずかった そんな矢先、俺は風邪を拗らせ入院になってしまった 航平にも迷惑をかけたくなくて家を出ようと思ったが 航平の真剣な引き止めに出て行くと言い切れなかった 多分心のどこかでは出て行きたくなかったんだ 理由は分かってる... あのデートの最後の時... あの時に気付いちゃいけない自分の感情に気付いたんだ 航平が好きかもしれない... いや、多分もう.....好きだ 女装じゃない俺に震えた航平を見てショックを受けた 航平は女装した俺に好意を向けてくれた ただ...それだけだったんだ... なんで....今更こんな感情持つんだよ 今まで女の人しか好きじゃなかったのに... なんで今更親友なんて一番近い存在好きになるんだよ いつも一緒にいて俺の一番の味方で一番の友達... 生きてるうちは気持ち伝えるなんて無理だよ... 入院してもうすぐ3週間... この先ドナーが見つからなければ 俺はいつ死んでもおかしくない だから俺が死んだら気持ちは伝える... 航平からしたら最後に気持ち悪い告白になるかもしれない でも俺は一番近い人だったからこそ全てを伝えたい 「これでいい?」 「うん、ありがとう」 「誰に出すの?切手は本当にいらなくて良かったの?」 「うん。郵送するわけじゃないから」 「そう...。その、それって変な手紙書くわけじゃないわよね...?」 「ん....?変な...?...あ!遺書ってこと??違う違う!そんなの書かないよ笑」 「まぁ…..似たようなものだけどどちらかというとラブレターかな」 「それなら尚更送らないとダメなんじゃない?」 「そうかなぁ?.....ねぇ、お母さん、俺の一生に一度のお願い聞いてくれる?」 「なによ、一生に一度って」 「.......俺がもし...もしだよ?もしいなくなってしまったらこの手紙を航平に渡して欲しい...」 「え?でもさっきラブレター...って...」 「.......うん」 「.......そう。わかったわ」 「気持ち悪い息子でごめんね」 「そんなことない!親にだって言えずに苦しんでいる子はたくさんいるんだから。隠さず教えてくれてありがとう」 「へへっ...」 気持ち悪がらずにいてくれてありがとう お母さんにも感謝の気持ちを遺さないとね フフッ、結局遺書みたいになっちゃうね.... 封を開ける日が来るかはわからないけど 本当に感謝しかないんだ だから気持ちを文章にせずにはいられなかった
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