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岡崎はいつも仲間を引き連れて、そのてっぺんにふんぞり返っているような奴だった。最初のきっかけは何だったか覚えていない。あいつにとって獲物は誰でもよくて、たまたま僕が標的にされただけなのだ。
新しい担任は新卒の女性教師で、真面目だけどクラスをまとめるだけで精一杯だった。
大人の目の届かない場所で執拗に繰り返される無心、強要、時に暴力や罵声を浴びせられ、僕は新学期から1ヶ月で学校に行けなくなった。
僕は運が悪い。
そう思ってやり過ごすしか方法は見つからなかった。
ラナは平日の18時から6時間働いていた。
僕は駅まで送るのを口実に、バイトが終わった彼女と公園で話をするようになった。
僕はいつも彼女の煙草に一本だけ付き合い、ラナは僕の飲み物を必ずひとくち欲しがった。初めは戸惑っていた僕も、だんだん慣れて気にならなくなった。
「だって、海の美味しそうなんだもん」
話すのはいつも他愛ないことばかりで、学校でのことや、テレビやネットで見かけた話題がほとんどだった。
それでも僕にしたら同世代との会話はとても新鮮だったから、彼女と顔を合わせるのが楽しみだった。
「学校のこと、誰かに相談してるの?」
ある時そう聞かれて僕は少しがっかりした。
彼女とその話をするのは気が進まなかったが、心配してくれてるのはわかったので、出来るだけ真面目に答えようと思った。
「担任は多分何も知らない。時々母さんと電話で話してるけど、家族にもはっきりとは言ってない」
「どうして」
「担任は頼りにならないし、家族は僕が弱虫だからだって思ってる」
「そっか。それは寂しいね。じゃあ、私には?」
「君に?」
「何でも聞くよ」
家族はだんまりの僕を持て余していて、一番年の近い兄も僕を遠巻きに見ているだけだ。
全てが意気地のない僕のせいだと言われるのが怖くて、そのもどかしさを家族にぶちまけることも出来なかった。
僕はしばらく迷った後に、岡崎の名前を出した。彼のせいで学校へ行けないことも。
「…そうなんだ。気づかなかった。話してくれてありがとね」
ラナの言葉は僕の気持ちに寄り添ってくれるようで、それだけで僕は救われた気持ちになった。
「私もね、昔はよくハーフっていじめられたけど、今はダブルって言うんだってね。両方の血が受け継がれてるって思ったら、他の人よりたくさんパワーをもらってる気がして、それだけで自分のこと、とても好きになったんだよ」
彼女らしい前向きな言葉は、僕に元気をくれた。
「海も自分を大切にしてあげてね。それはきっと強さになる。海の優しさが私はとても好きだよ」
「ありがとう」
僕は久しぶりに心から笑った。
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