月虹

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そんな気持ちも楽しみだった時間も、予期せぬ闖入(ちんにゅう)者に打ち砕かれた。 「(かい)?」 聞き覚えのある声に僕の体が強張った。ニヤニヤ笑いながら岡崎が近づいてくる。 家は離れているはずなのに、何で… 「何だよ。元気そうじゃん」 馴れ馴れしく僕の肩に腕を回してくる。 僕は彼らに囲まれて、体も口も動かせない。 「最近俺ら面が割れててさ。面倒だからこっちまで時々来んだわ」 放っておいてくれたら 他に何も望まないのに やっと(わず)かな幸せをを掴めるかと思ったのに 「学校はサボっても女とは会うわけ? やるねぇ、海も」 岡崎はレジにいるラナにもすぐに気がついた。 「ちょっと頼みがあんだけどさ」 岡崎はラナと僕を店の外に呼び出すと、酒と煙草が欲しいと言い出した。もちろん金を払う気はない。 卑劣な要求すらも断れない僕の代わりに、ラナが口を開いた。 「一度だけだよ。そしたら二度と(かい)に近づかないで」 「話が早いな。じゃあ、明日また来るわ」 岡崎は上機嫌で帰っていった。 「万引きなんてダメだ。お金は払うから」 要求を突っぱねることも、彼女を守ることも出来ない自分が情けなくて涙が滲んだ。 懇願する僕にラナは微笑んだ。 「私に考えがあるの」 「誰か大人に知らせて…」 「うん。そうするから、海もひとつ約束して」 学年主任の坂本先生に、岡崎とのことを打ち明けろと言うのだ。 「坂本は信用できる。私もろくな生徒じゃないけど、あの人のことは裏切れない」 「でも…」 「大人はみんな嘘つきだと思ってた。でも、わかってくれる人は絶対いる。自分から心を開くのは怖いけど、きっと受け止めてくれる人はいるから」 ラナのその言葉は動揺する僕を、(なだ)めるように優しく心に響いた。 翌日、僕は仕方なくコンビニへ向かった。 彼らはもう店の入り口でたむろしていたが、僕を見ると指で銃を作って撃つ真似をした。 ラナがレジに立っているのが見えた。
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