23人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は思いきって坂本先生と会うことにした。
30代半ばで固く結んだ口元が冷たい印象を与える人だったが、取り留めのない僕の話を最後まで聞いてくれた。
「辛かったな。話してくれてありがとう。俺が担任と話しておくから」
「はい」
言葉は少なくても、先生の優しさが伝わってきた。
「でも、意外だな。おまえと向井が仲良くなるなんて」
「偶然なんですよ」
「あいつも最初は野良猫みたいだったなあ」
思い出すように先生が笑った。
「牙は剥くわ、爪は出すわで大変だった。本人も必死だったんだろうけど」
「先生は信用できるから、裏切れないって」
クールな先生の表情が崩れた。
「俺のお節介も役に立つもんだな」
「僕のことなんか誰も気にしてないと思ってました。だから、ラナに会えて嬉しかった」
「教師の俺が言うのも何だけどさ、学校なんてほんの小さな仮初めの社会でしかない。もちろん、成長のために自分に負荷を課すことは必要だけど、ここで全てが決まる訳じゃないんだ」
それはラナを通して感じていた。
大切なものを傷つけられたラナは、それを取り戻そうと頑張っていた。外に広がる世界と繋がり、信頼できる人たちの手を借りて、自分でも出来ることをやりきった。
「でも、先生がいてくれるなら、もう一度ここで頑張ってみます」
先生はまた笑った。
「そうか。ありがとな。これ、おまえに渡してくれってさ」
渡された紙片には日付と時間が書いてあった。
その意味はすぐにわかった。
HNLは彼女の行き先だ。
「独りで行けるか」
「行きます」
行かなきゃ 絶対後悔する
最初のコメントを投稿しよう!