月虹

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僕は思いきって坂本先生と会うことにした。 30代半ばで固く結んだ口元が冷たい印象を与える人だったが、取り留めのない僕の話を最後まで聞いてくれた。 「辛かったな。話してくれてありがとう。俺が担任と話しておくから」 「はい」 言葉は少なくても、先生の優しさが伝わってきた。 「でも、意外だな。おまえと向井が仲良くなるなんて」 「偶然なんですよ」 「あいつも最初は野良猫みたいだったなあ」 思い出すように先生が笑った。 「牙は剥くわ、爪は出すわで大変だった。本人も必死だったんだろうけど」 「先生は信用できるから、裏切れないって」 クールな先生の表情が崩れた。 「俺のお節介も役に立つもんだな」 「僕のことなんか誰も気にしてないと思ってました。だから、ラナに会えて嬉しかった」 「教師の俺が言うのも何だけどさ、学校なんてほんの小さな仮初めの社会でしかない。もちろん、成長のために自分に負荷を課すことは必要だけど、ここで全てが決まる訳じゃないんだ」 それはラナを通して感じていた。 大切なものを傷つけられたラナは、それを取り戻そうと頑張っていた。外に広がる世界と繋がり、信頼できる人たちの手を借りて、自分でも出来ることをやりきった。 「でも、先生がいてくれるなら、もう一度ここで頑張ってみます」 先生はまた笑った。 「そうか。ありがとな。これ、おまえに渡してくれってさ」 渡された紙片には日付と時間が書いてあった。 その意味はすぐにわかった。 HNL(ホノルル)は彼女の行き先だ。 「独りで行けるか」 「行きます」 行かなきゃ 絶対後悔する
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