月虹

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 僕の住むマンションのすぐ隣にはコンビニがあって、新発売の商品を真夜中に買いに行くのが、ささやかな楽しみだった。 高2の夏休みが始まったばかりのその夜も、僕はそっと部屋を抜け出した。足音を忍ばせてエントランスから外に出ると、煌々(こうこう)と明るい店内へ足を踏み入れた。 来客を告げるチャイムが響く。 今日のお目当ては夏期限定のティーソーダだ。 冷蔵庫を開けてそれを取り出すと、レジに向かった。 人気(ひとけ)のないこの時間帯に、僕は時々こうしてやって来る。ただでさえ人の目は気になるし、知り合いに会うのも気まずい。今は夏休みだけど、僕はこの五月の連休のあとから学校に行っていないからだ。 「いらっしゃいませ」 女性の声にはっとした。いつもは大学生の若い男性だったはずだ。 こんな夜中に 女の子が…? 視線の先に、見覚えのある笑顔が飛び込んできた。 向井 ラナ 確か母親がハワイの出身だと、クラスの自己紹介で言ってたっけ。日本人離れしたくっきりした目鼻立ちは、少女と言うよりもすっかり大人びた雰囲気で、長い髪を後ろでひとつに束ねていた。 ほんのり蜂蜜色に近い肌は、深夜のアルバイトとは無縁なほどに健康そうだ。 「袋は」 「…あ、いえ」 僕がおずおずと口にすると、ラナはテープを貼ってくれた。電子マネーで支払いを済ませて商品を受け取った。 「内緒ね」 不意にラナが声をかけてきた。 驚いて顔を上げると、彼女は口元に人差し指を当てていたずらっぽく微笑んでいた。学校ではバイトが原則禁止されている。 「…うん」 勢いに押された感じだが、元よりチクるつもりなんかなかったし、だいたい僕は─ 自嘲じみた感情にため息が出た。 僕だってこの現状に、いい加減うんざりしてるんだ。 「今、ヒマ?」 「うん。まあ…」 ラナはバックヤードに声をかけてから店を出ると、僕を近くの公園へ連れ出した。ベンチがひとつあるだけの隠れ家みたいな場所だった。近所なのに来るのは初めてだ。
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