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「はァ、疲れた疲れたぁ。ちょっと上がらせてもらうけんねえ」
母は俺の言葉をマルッと無視し、ドカドカと家の中へ上がり込んだ。行き場を失った俺の感情は、無惨にもバタンと閉ざされたドアの音で散り散りになった。
「あら、こんにちは。純平のお友達?」
「初めまして。隣に住んでます小堺です。ご子息の鈴村さんにはいつもお世話になってます」
「あらあらまあまあ、若いのに礼儀正しかねえ。それにイケメン!」
母がリビングで正座する小堺くんを見つけて喜んでいる。
「いやいやいや、そうじゃなくて! いきなりすぎるだろ、どうしてここにいるんだよ」
「いきなりじゃないよお。米谷玄五郎ライブが東京であるけん、そっち行くね〜って。手紙にも書いたでしょ? あたしの荷物送るからよろしくって」
「何言ってんだ。そんなこと一言も」
いや。もしかしたらトマト汁でぐちゃぐちゃになったあの手紙に書かれていたのだろうか?
「ていうかオカンの荷物ってなんだよ? 俺のために送ってくれたんじゃないのかよ」
「あんた……想像力がたくましくなったねえ。トマトと一緒に送ったんな、ライブ鑑賞のための必需品よ。お隣の農家からいただいたトマトば送るついでに、今日使うグッズも一緒に詰め込んだとよ」
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