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つまりこういうことか?
母は本日開催の米谷玄五郎ライブを堪能しに、わざわざ熊本から東京へやって来た。
自らの手荷物を少しでも減らすため、事前にライブ鑑賞グッズを東京在住の俺に送りつけた。
地元の名産品に紛れ込ませて……。
初日にトマトまみれになった水筒、タオル、うちわ、Tシャツその他もろもろの真相が分かってしまった。うちわに至ってはばっちいので捨ててしまったのだが。
「じゃあ、貯金箱は? 俺が故郷へ帰るための交通費じゃねえの」
「ああ。純平が我が家に残してったアレね。あの貯金箱、あんたはもう用無しみたいだけん、今は私が愛用しててね。ライブのあと東京観光もしたいけん軍資金に持ってきたとよ」
なんつー母親だ。
「俺が小学生の頃コツコツ貯めた金も入ってんだぞ?」
「いつまでもあると思うな親と金って言うでしょ?」
「そのことわざはもういいよ!!」
これ以上聞くのはこわいが、話の流れで訊くしかない。
「見合い写真。あれこそ俺に地元で暮らして欲しいっていう意思表示だろ!? 」
「あんた深読みするのが好きねえ。確かに、純平のことは心配してたよ。だってぜんっぜん結婚する気配がなかけんね。ばってん、地元に来てあたしの面倒見ろとは言わんたい。だって実はね……ふふ。
母ちゃん今ね、結婚を考えてる人がいるとよ」
「……は、け、けっこんん!? 」
「だけん、ついでにあんたもどうかなって」
やっぱり俺はついでなのかよ。
「今、ついでかよって思ったでしょ? やあね。今日だって、玄ちゃんのライブ目的で来たけど、純平の元気な姿も見たくって……本当たい。だけん、わざわざ東京まで飛んできたの。たまには顔くらい見せなっせ。こっちだって遠慮して、連絡控えとっとよ」
「オカン……」
良かった、俺の存在かすみじゃなかった。
「まあ。万が一お見合い相手に興味持ってくれたら、こっちに戻ってくるかもしれないって下心も……ないと言ったら嘘になるけどね」
母はふふっと笑って俺を見上げた。
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