ドキドキなお届けもの

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「で、結婚するんですか?」 この間のトマトのお礼にと、トウモロコシをおすそ分けに来てくれた小堺くん。 俺は彼を引っ捕まえて愚痴った。 小堺くんは人ごとだと思って冷静に問いかけてきた。 「いやしねーよ。今どき親の紹介で見合いとかないわ。俺は自然な出会いがいいの」 「そんな余裕かましてられる年齢ですか。自分の友人ですらマッチングアプリやってんのに」 「まじで? 今どきの大学生ってそうなの」 「いいじゃないですか、会ってみるくらい。それに熊本出身の女性なんでしょ。お母さん、きっと鈴村さんに帰って来て欲しいんですよ。寂しいんじゃないですか。なんで故郷へ帰ってあげないんですか」 なぜ母のいる故郷へ帰らないのか……。 正直、この質問をされると胸が痛む。 地元ではそこそこ名の知れた大学出身だった俺。 学生時代は、教育費を負担してくれた母に報いようと、勉学に励んでいた。 近所での俺の評判は「しっかり者の息子さん」だった。 「いいわね、鈴村さんちは息子さんが理想的で」 「立派なお子さんがそばにいてくれたら、老後も安心ねえ」 聞こえてくる言葉が、愛想笑いが、徐々に俺を息苦しくさせていった。生まれてからずっと同じ土地で暮らしてきた。昔なじみの友人がいて、そこらを歩けば知り合いに会う。 あなたはここにいて、母の恩に報いるべき。 そう言われているように感じた。 俺はずっとここで暮らさなきゃならないのか? 住み慣れた故郷を離れることは罪だろうか。 ここじゃないどこかへ行きたい。 とにかく故郷からできるだけ離れた場所へ。 大学卒業とともに、俺は東京へ移り住んだ。 誰も俺のことを知らない土地。 イチからやり直せる環境。 就職のためと言えばみんな納得してくれた。 激励に来るジジババたちが、いつかまたココへ帰ってくるんでしょう? とささやく声が聞こえた気がした。 故郷を出たあと、絡め取られるのが嫌で、母への連絡も最低限にとどめていた。 俺はオカンから逃げたのだ。
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