懐かしのお届けもの

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懐かしのお届けもの

土曜日の朝、再びピンポーンという音が響き荷物が届いた。飯を食って洗い物もせずダラダラ過ごしていた俺は、不意打ちを食らった。 送り主は言わずもがな、母である。 「小堺くーん、いる?」 俺は隣人を訪ねた。 「おはようございます。ていうかなんでオレんとこ来るんですか」 「小堺くんは、オカンの便り見守り隊メンバーじゃん」 「勝手にアドバイザーにしないでください」 不機嫌な小堺くんに、我が家の冷蔵庫にあるコンビニスイーツの存在をちらつかせる。 すると、驚くほどアッサリと大きな背中を丸めてついて来た。甘いものが好きだったのか。 「これって。貯金箱……ですか?」 俺たちは頭を突き合わせ、朝イチに届いた小包の中を覗き込んだ。 「そうだな。俺が小学生の頃、夏休みの自由研究でつくったやつだ」 懐かしい。 手に取ってまじまじと見つめてしまう。 「なんでシャチホコの形してるんですか?」 「いや、たいした理由じゃないんだけどさ」 かつて母が熱を上げていた男性シンガーソングライターが、名古屋の名城公園でストリートライブショーを開催した。 ライブはテレビでも放送され、母は食い入るように観ていた。 小学3年生だった俺は、時折画面に映される金のシャチホコの存在に目を奪われた。 名古屋城のてっぺんに燦然(さんぜん)と輝くシャチホコ。 青空という名の大海へ、今にも泳ぎ出しそうなシャチホコ。 なんかカッコいい。 当時の俺は、カッコいいシャチホコをつくる自分の姿を夢想した。 「ほんとにたいした理由じゃなかったですね」 「おい」 悪意がなさそうなのが逆に腹立つ。 小学生の制作理由なんてそんなもんだろうが。 ウロコを紙粘土で表現するのは、小さな自分には大変な作業だったのだ。 金を出すとき貯金箱本体を壊さなくて済むように、シャチホコの顎の下に取り出し口を設ける工夫だってした。 すべて自分で考えたのだ。 なかなかの出来栄えだった。 小学生だった頃の俺は、これを使ってこづかいを貯めていた。
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