懐かしのお届けもの

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「このタイミングで懐かしの貯金箱が送られてきたということは……ここにある貯金を使って熊本へおいでという意味でしょう」 「いや待って? この金、俺が貯めたやつだからね」 「名古屋には確かに魅力的な観光スポットがたくさんありますが……熊本には熊本の良さがあります。馬刺し、辛子れんこん、熊本ラーメン。さらには名古屋城にも引けを取らない名城、熊本城があるじゃないですか!」 「キミはいつから熊本観光大使になったの」 釈然としない思いを抱きつつ、小堺くんが力説するならそうかもしれないという気持ちになってくる。 紙粘土でできた貯金箱は、思ったよりずっしりと手に伝わる。眺めているとつくった頃の思い出がよみがえるようだ。 シャチホコの顎下にあるゴム栓を外すと、硬貨が音を立てて散らばった。 転がり出てきた10円玉は黒っぽく変色していて、月日が経ったのを感じる。 「あれ。500円玉が入ってる」 500円玉なんて、入れた覚えはない。 小学生だった時分、自分のお小遣いは100円玉5枚の合計500円だった。たまにスーパーで買い物をした母から、釣り銭の10円玉や1円玉をボーナスとしてもらうことはあったけど。 だからこの500円硬貨は、俺のじゃない。 俺が故郷を出たあと、母が追加して入れてくれたに違いない。 行ってみるか……? 熊本へ。 母の顔を見るために、久しぶりに生まれた場所へ足を運んでみようか。 まだほんの少し、故郷の地を踏むには勇気がいるけれど……。 8年もすれば、人も環境も変わっている。 あの頃は自分中心でしか見られなかった景色を、今ならもっと肩の力を抜いて見ることができるかもしれない。 それを確かめに行くのだ。
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