オジサンになれるくすり

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 午後になり、津山、平嶋、三木本は会議室に入った。 「本日はお時間をいただきまして、大変ありがとうございます」 『いえいえ、こちらこそよろしくお願いします』  ウェブ会議の画面上に現れた顧客は、まだ若い男女二人だった。三十手前の平嶋と同世代だろうか、津山の強面に臆するふうもなく、女性がにこやかにあいさつを返した。 「じゃあ、そろそろ説明を。三木本」 「はい」  画面前で一礼し、三木本が新製品の説明をはじめた。平嶋も自然と背筋が伸びる。指導係として当初からかかわってきた平嶋は、なんだかんだ言っても三木本にプレゼンを成功させて欲しかった。 「それでは、三つのメリットをご紹介します」  平嶋の心配は杞憂に終わった。  三木本のプレゼンは簡潔でわかりやすく、津山の指摘どおり顧客のメリットに重点がおかれた内容に編集されている。手振りをまじえて説明する三木本の語り口にもよどみがなく、容姿の効果も相まって、初めてのプレゼンとは思えないできばえだった。 「以上です。他にご質問はありますか?」  画面向こうの男女は互いに目配せをし、男性がうなずいた。 『私の方はありません。佐野(さの)さんは?』 『私も大丈夫です。それではお話を進めさせていただきたく、まずはお見積りをいただけますか』  てっきり、「いったん持ち帰り」になるものと考えていた平嶋は、思わず津山を見た。 「それは、御社での(りん)()は不要ということでしょうか」  津山の質問に、佐野と呼ばれた女性が笑顔でうなずいた。 『この金額であれば、私の裁量権で通すことが可能ですから。今後は、こちらの()(むら)を窓口にお話を進めていただければと思います。そちらは、三木本さんが担当ですよね?』 「はい」 『メールのやり取りをしているときから思っていましたが、それなら頼もしいです。どうぞよろしくお願いします』  互いに頭を下げ合って、ウェブ会議は終了した。 「いやー、うまくいきましたねえ」  機材を片付けながら、平嶋はうわずった声で言った。三木本はまだ呆然としているようだ。 「それにしても、あの佐野さんって女性の方が上司だったんですね。どっちも若くてびっくりしたけど」 「お前らだって変わらんだろ」  津山は立ち上がり、出入り口に向かった。 「これからは二人で対応しろ。定期的に報告は入れるように」  そう言って出ていった。 「二人でか。大変だな……」  片付けが終わって振り返ると、三木本はまだ椅子に座っている。眉間に深いしわを刻んだその表情に、平嶋は首をかしげた。
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