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「今日の朝会で、土屋さん何か楽しいこと考えてた?」
大和くんが先にベンチに座って、私を見上げてそう尋ねた。
ギク!
私は、大和くんから視線をそらして「この間観た映画を思い出して…」と誤魔化した。
「そうなんだ!みんなつまらなさそうにしてるのに、土屋さんだけなんか楽しそうだったからさ…」
普段は気をつけてるのに…油断した…
私はへへっと、力なく笑った。
「俺はね…校長の話の時とか、つまんない授業の時は小説のネタ考えたりするんだよね…例えば今日は、校長が壇上で話している最中に猿が乱入してきてマイクを持ち去ってしまうっていう学園ミステリー…」
私は、気づけば「うんうん!」と、大和くんの話を身を乗り出して聞いていた。
「面白い…かな?」
大和くんは少し照れたようにはにかんで笑って、頭を掻いた。
「面白いと思う…猿は誰かの手先なのかな?」
私が遠慮がちにそう尋ねると、大和くんは目を輝かせて「そう!教頭が一番に疑われたんだけど、実は生徒会長の手先だったんだ…」と、話を続けた。
大和くんの思い描いたストーリーは面白かった。
私にはない奇抜な発想があって、思いがけない展開にワクワクした。
「こんな話、真面目に聞いてくれたの土屋さんが初めてだ…それに、めっちゃ理解してくれて…思い切って話しかけて良かった!」
大和くんはまた、かたえくぼを作って笑った。
"私も…私もこんな風に誰かの妄想ストーリーを聞くなんて初めてで、自分と同じことしてる人がいて嬉しかった。声かけてくれてありがとう…"
喉元まで出かかった素直な気持ちが、どうしても口からは出て来てくれなかった。
私の口から出た言葉はたった二文字…「…うん」だけだった。
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