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おまえらの☆プリンスさまっ♪
「魔王軍が襲撃に来ただとぉおおおぉおお!?」
春風が差し込み、季節の花が可愛らしく舞う王都・アルシェベート城。鳥が囀り、朝を告げる食器の音がかちゃかちゃとにぎやかに鳴り、魔法の呪文詠唱を間違えた新米メイドのエプロンとメイド長の叱責が縦横無尽に飛び回る穏やかな朝は、騎士長の慌てまくった叫び声により、一瞬にして動揺に包まれた
どうやら昨夜、姫様の寝室護衛以外の従者が全員眠りについた丑三つ時。暗殺や誘拐を主とする、この世界では名の知れ渡りまくった魔王城の少年ゴーストたちが人知れず侵入したらしい
「護衛は何をしてたんだ!?」
「どっ、どうやら眠り香のポーションを受けていたようで、朝までぐっすり…面目次第もございません…!」
思わず怒鳴りつけると、連絡係の見習い執事が涙目ながらに最近話題の『魔導式☆いい上司ロボ』も真っ青なスピードでぺこぺこと頭を下げる
いけない。これではこっちがパワハラ上司だ
しかし焦るのも多少は見逃してほしい。今は王と王妃はこの城でも最上級の護衛と執事と共にバカンス中で、騎士長はその留守を任されたいわば責任者なのだ。この事態がバレたら、首が飛ぶどころでは済まされないであろう
(まずいまずい、まずいぞ…!ゴーストのマントは物体に限らずあらゆるものを秘匿する、別名抱擁のマント。もはや見つけるのは…姫、そうだ、姫に何かあっては…!)
「総員、姫の寝室へ急げ!もし万が一誘拐されていたなんてことになれば大変な事態だ!」
その声に、ぽかん…と固まっていた従者たちも動きだし、全力疾走で姫の寝室へと駆け出した
皿や窓ガラスの割れる音が断続的に響くが、今はなりふり構っていられない。勇者の鍛錬も全ッ然間に合っていないというのに…!
「姫ぇ!ご無事ですか!」
バァン!とドアをぶっ壊しながら姫の寝室に飛び込む
そのままの勢いで、天蓋付きの大きな大きなベッドに何百人と従者がなだれ込んだ。その衝撃で、小さな体が羽毛ブランケット越しにもぞ…と動くのが見てとれる
「…んぅ…?ぉはよぉ、みんなぁ…」
「ほっ……おはようございます、姫様」
よかった〜〜〜!姫様さえいればあとは宝石が何個盗まれていようが伝説の絵画が消えていようがどうということはない。なんとか首も飛ばずに済むだろう
ばくばくと騒ぐ胸を撫で下ろし、思いっきりガッツポーズをしながら、ようやっとまともに息が吸えるようになった心臓を休ませた———のも束の間
「大変です騎士長!王子がいません!」
「はぁああああ!?」
せっかく休ませられたと思った心臓が、また早鐘のように波打ち始める
何故だ!?確かに立場的には王子でも問題はない…が、こういうのは姫と相場が決まっているのではないのか!?確かに王子は姫とよく似た整った顔立ちをしてはいるが、女顔というわけでは…しかも簡単に捕まるほどやわな訓練はしていないはず…腕っ節が強いわけでもないゴーストたちにそんなやすやすと…?…まさか
最悪の想像が脳裏をよぎって、つぅ…っと冷や汗がこめかみを伝った
流石に嘘であってほしいと天を仰ぎ見るも、無慈悲に真実は伝えられる
「その、窓が空いていて、窓際に、この手紙が…」
心中お察ししますという顔をしてくれているのが唯一の救いだ…このことを主様に伝えても首がつながっていたら君にはボーナスをあげよう…
「………………開けるか」
『ゴーストくんたちのお話面白いし、公務だりぃからちょっくら魔王城行ってくんね〜。
あとはよろしく〜てへぺろ☆
from:おまえらの☆プリンスさまっ♪』
「………あンの王子は〜〜〜!!!!💢💢」
死刑執行を待つ死刑囚のような心情で開いたその手紙の、あまりにもそぐわないテンション感にもはや気絶して楽になりたくなる
騎士長の脳裏に、長いまつ毛でばちばち星を散らし、舌を出しながら無駄に様になる(しかもそれを自覚している)ウインクをキメる見慣れた王子の顔がよぎった
もう別のもんキメてるだろ、クビになった暁にはいっぺん殴らせろ
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