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第9話 ひとつになる時
栄太朗としおんは海水浴からの帰宅の途についていたが、二人ともこのまま帰るつもりはなく、運転しながらどこか休憩できそうな場所を探していた。
やがて栄太朗は、横浜横須賀道路へ向かう幹線道路沿いに薄明かりの灯る小さなホテルを見つけると、「ここでいい?」としおんにささやいた。しおんが笑顔で頷くと、栄太朗は駐車場へと車を入庫させた。南国のリゾートのような雰囲気の内装で、まるで二人で海外旅行にでも来ているような気分になった。
「いいね、ここ。何だかハネムーンに来たみたいな気分になるね」
「そ、そうか?」
ベッドの上に腰掛けると、しおんは栄太朗の上に乗り、キャミソールから露出した背中を栄太朗に見せつけるかのように後ろを振り向いた。
「どう?」
「すごい……背中、全部見えてるじゃん」
「ドキドキしちゃう?」
「うん……たまんないよ」
するとしおんは、栄太朗の手をそっと掴み、背中や肩の辺りを触らせてくれた。
「すべすべだね。本当にきれいな肌してるよ。しおんさん」
「ありがとう」
しおんは栄太朗の隣に腰掛けると、腕をそっと絡め、あごを肩の上に載せた。
「タンクトップ、すっごくかっこいいよ。背中も胸のあたりも、こ~んなに露出しちゃってるし」
「ありがとう。最初は嫌だったけど、今はこれも良いかなって思えてるんだ」
「あ、乳首見えてる。かわいい」
しおんはタンクトップからほんの少しはみ出していた乳首を覗き込むと、唇を伸ばしてそっと口づけした。栄太朗はくすぐったさで身体が震えた。
するとしおんは乳首から唇を離し、今度はブチュっと音を立てて栄太朗の頬に押し当てた。栄太朗は突然の口づけに驚いたが、しおんは構うことなくもう片方の頬にも口づけした。
「あ、そうだ……ちょっと待っててくれるかな。フフフ」
一体何かを思い立ったのか、しおんは急に立ち上がると、鞄の中から口紅を取り出し、鏡で確かめながら何度も引いていた。そして数分後、髪をかき上げながら振り返ったしおんの唇は、光沢を帯びた真紅の色に染まっていた。
しおんははにかんだ顔でクスっと笑うと、栄太朗の肩に手をかけ、いやらしい音を立てて頬に唇を押し当てた。しおんがそっと唇を離すと、栄太朗の頬には何かがべっとりと付着したような感触が残っていた。栄太朗は頬に手を当てると、濃い紅色の口紅が付着した。
「え、手が真っ赤になっちゃった。何だよこれ」
栄太朗が鏡を覗くと、右の頬の中央に赤く大きな唇の跡がくっきりと残っていた。
「……こ、これって?」
「そうだよ。初めて? キスマーク付けられたの」
「いや……確か、若い頃遊びに行ったキャバクラで付けてもらったかな?」
「そうなんだ……」
「あれ? しおんさんも風俗にいた時、お客さんにしてあげたんでしょ?」
するとしおんは首を横に振り、栄太朗に口づけをせまるかのように顔を近づけながら話し出した。
「私は風俗での遊び相手じゃなく、ちゃんと心から好きだと思った人にキスマークを付けてあげたい。『大好き』って言ったり唇を重ねるだけじゃなくて、真っ赤な口紅で相手のお顔に『大好き』の印をつけてあげたいの」
そう言うと、しおんは再び唇にこってりと口紅を引き、もう片方の頬、おでこ、こめかみ、耳たぶ、顎、鼻と、栄太朗の顔中の至る所に次々と唇を押し当てた。
「おい、ちょっと、しおんさん……」
しおんは栄太朗の声に気づき、ようやく顔から唇を離した。
「わーい、顔中キスマークだらけになっちゃった。私の『大好き』の印で栄太朗さんのお顔を埋め尽くしちゃった」
栄太朗は慌てて鏡を覗きこむと、しおんの大きな唇の跡が顔中を埋め尽くすかのように大量に付いていた。
「大好きだよ、ダーリン」
しおんはそう言うと、再び栄太朗の頬に口づけした。
「だ、ダーリン?」
「ダメ?」
「い、いや……すごく嬉しいよ」
「栄太朗さんのこと、ダーリンって呼びたい。あなたのこと、心から大好きだもん」
やがてしおんは栄太朗の唇の上に重ね、舌をそっとねじこんできた。そして、背中に腕を回すと、首と腰のあたりで結んでいたキャミソールの紐をゆっくりとほどいた。キャミソールが床に落ちた時、栄太朗の目の前には半裸になったしおんの姿があった。大きくて張りのあるバストと、丸い珠のような乳首を見た瞬間、栄太朗の興奮はもう抑えられなくなってしまった。
「すごい、股間が膨れすぎちゃってる」
「だって……我慢できねえよ。こんなにたくさん愛されたら」
「じゃあ、こっちもキスしちゃおうかな」
しおんは栄太朗のズボンと下着を降ろすと、大きく反り上がったペニスをゆっくりと撫で、そのまま口にくわえた。ペニスはしおんの口の中で段々大きくなり、しおんが舌で何度も裏筋を舐めるうちに、栄太朗はとうとう我慢の限界を超えてしまった。
「で、出ちゃった……」
「アハハハ、いっぱい出ちゃったね。さすがにこれ以上我慢できなかった?」
しおんは口の中に発射された精液を吐き出すと、栄太朗に「ほら」と言って見せつけた。
「で、出すぎちゃった。これからしおんさんと一緒になるというのに」
「大丈夫よ。ちゃんといっぱい愛して元気にしてあげるから」
しおんはスカートを脱ぎ捨て、Tバックの下着だけの姿になった。
「ねえ、ダーリン。紐を……ほどいて下さる?」
「え? 紐って」
「決まってるでしょ。この紐しかないじゃん」
しおんはいたずらっぽい笑顔で笑うと、下着の両端にある紐の結び目を指で引いてみせた。栄太朗は激しく鼓動する胸を押さえながら、紐の結び目をそっと引っ張った。すると、紐はするりとほどけ、しおんの陰部が目の前に現れた。
「ほどいてくれてありがとう、ダーリン」
しおんは栄太朗の両肩に手を伸ばすと、激しく口づけした。そして、そのまま栄太朗の着ていたタンクトップに手をかけ、ゆっくりと首の上へと引き上げた。栄太朗も、しおんと同じく生まれたままの姿になっていた。
「ありがとう、しおんさん。俺……しおんさんを喜ばせるほどの自信がないけど、君と一緒になりたいよ」
「ハハハハ、AVじゃないんだから、そんなの気にしないでいいよ。私も早くダーリンと一緒になりたい」
ふたりは生まれたままの姿で抱き合い、唇を重ね合った。激しい愛撫の後、しおんは栄太朗のペニスを口いっぱいに含むと、下から上へと何度も舐め出した。すると、さっき射精して元気を失ったはずのペニスが再び真上へと反り上がり始めた。栄太朗は、しおんの陰部や乳首を何度も舐めた。そのたびにしおんは吐息を上げながら体を震わせた。甘い声を聞くうちに、栄太朗は気持ちが次第に高揚していった。
「ねえ、早く挿れて」
栄太朗はしおんに耳元でそうささやかれると、愛撫されて大きくなったペニスをしおんの陰部へと挿入した。しおんの陰部はびっしょりと濡れて、なかなか上手くペニスを挿入できなかったが、しおんはペニスに手を添えて、ゆっくりと陰部に挿入してくれた。
栄太朗のペニスは、温かくやわらかいものに包まれているうちにさらに大きくなっていった。栄太朗はしおんの腰に手を添えると、何度も何度も激しく腰を振った。しおんは「ああん」と甘い声を何度も上げていた。
二人は汗まみれになりながら、互いの体と一つになりたいという気持ちを重ねて合わせていた。
どれくらい時が過ぎただろうか。
二人は抱きしめあったまま、頭を並べて南洋風の装飾がほどこされた天井を見つめていた。
「しおんさん……すごく気持ち良かったよ。溜まっていたものが、全部出ちゃったよ」
「もう、溜まり過ぎだよ、ダーリン。ひょっとして、ずっとエッチしてなかった?」
「ま、まあ……それもあるけど、嬉しかったというのもあるんだ。君とひとつになれて」
「私もだよ」
しおんは微笑むと、栄太朗の頬に口づけした。
「しおんさん……俺、夢見てるみたいだよ」
「どうして?」
「大好きなキャミソールが似合う美人に、こんなにキスされて、『ダーリン』とか『大好き』って言われて……今までの自分にはありえなかったことだらけでさ」
「奥さんは? 大好きって言ってくれなかったの?」
「まあ、結婚した時に何度か言ってくれた位かな。俺もあいつ照れ屋だし、面と向かってなかなか言いづらくて」
「キスとかエッチも?」
「うーん、それも結婚した当初くらいかな。今はもう全然」
「そうなんだ……」
「どうしたの、急に」
「な、何でもないよ。さ、もうそろそろ夜になるし、シャワー浴びて帰りましょ。あまり遅いと奥さんに勘繰られるでしょ?」
「え? もうそんな時間なんだ?」
部屋にあるたった一つの時計を見ると、もう七時を回っていた。ここから都心まで一時間以上かかるので、そろそろ出発しないと今日中に自宅にはたどり着かない。
「うわっ、栄太朗さんの顔中、キスマークだらけ。本当は消したくないけど、これはさすがにちゃんと洗い落とさないとね」
しおんに言われて栄太朗が鏡を覗きこむと、顔中にはベッドに入る前にしおんが付けてくれた無数の口づけの跡がびっしりと残っていた。さすがにこのままで帰ったならば、紀子に出入禁止を言い渡されてしまうのは想像に難くなかった。
「でも、何だか名残惜しいな。折角しおんさんがこんなにたくさん『大好き』の跡を俺につけてくれたのに、それを一気に全部消し去らなくちゃならないなんて」
「そうね……」
しおんは名残惜しそうにそう言うと、栄太朗の手を取り、ベッドから立ち上がった。二人はそのままシャワー室へと向かい、蛇口をひねると、生温かい水が勢いよく流れ落ちてきた。しおんは栄太朗の顔をボディソープを使って丁寧に撫で回すと、皮膚が見えなくなるほど付いていた真っ赤な口紅の跡はことごとく流れ落ちてしまった。
排水口に落とした口紅の混じった真っ赤な水が流れていく所を見て、しおんと栄太朗は、二人だけの夢のような時間に終わりが近づいているようで、寂しい気持ちになった。お互いに体を洗い終わると、二人はそのまま抱きしめあい、深く口づけあった。二人だけの秘密のバカンスが終わるのを惜しむかのように。
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