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私が声をかけると、その女の子――花森くるみが、こちらを振り返る。白一色のコーデに身を包んだ、色白の少女。
幼馴染みで親友のくーちゃんだ。慣れない場所に、その瞳は不安そうに揺れていた。
「うん……知らない人と同じ部屋だったら、一カ月間、眠れなかったかも」
彼女が大げさに言うので、私は小さく噴き出した。
「くーちゃん、かなり人見知りだもんねえ」
二人一緒にオーディションに合格という幸運に加え、寮部屋も一緒だなんて、何という奇遇だろう。私達って、本当にラッキーだ。
※
十五時二十分。
専用のエレベーターで地下一階のレッスンフロアへ移動し、エレベーター横のフロアマップを頼りに『教室』へ行く。
途中、目についたのは、廊下の天井に設置された多数のカメラと、判で押したように同じ格好をしたスタッフらの存在だ。
スタッフはそれぞれ、カメラや照明器具など、手にしている機材は違うものの、一様に黒いスーツにサングラスを装備している。それに、にこりとも笑わない。挨拶すると、会釈を返してくれるけど、言葉は発しない。男性も女性もいる。どちらの場合も黒髪で、男性は前髪を後ろになでつけ、女性は首の後ろで一纏めにしている。
廊下を歩いていると、スタッフの抱えるカメラがこちらに向けられる。すでに外部向け映像の撮影が始まっているようだ。
「あっ、えっと――よろしくお願いしまーす」
私は咄嗟に挨拶し、レンズに向けて笑顔を作ったけれど、緊張で、引きつり笑いになってしまったかもしれない。くーちゃんは、カメラを見つけるたび、私の後ろに隠れた。
前方に『教室』が見えてくる。
教室の手前では、黒髪の小柄な女の子が、カメラに向かってちょっとした演説をしていた。
「ここまで来たのは奇跡なんかじゃありません。すべては、僕の努力の賜物です! ファンの皆さん、見ていてください。僕は、絶対にアイドルになってみせます!」
「僕」という一人称を珍しく思いつつ、力説する女の子の脇を通り過ぎる。んー、さすがアイドル養成施設、ジェンダーレスでダイバーシティだ。感心しながら、『教室』の扉に手を掛ける。
扉を開くと、複数の視線が私に集中した。
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