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「いやいや、研究生だし、そんなに大仰なものじゃないのよ」
愛菜は気楽な調子で謙遜するが、私の衝撃は消えない。少なくとも私の友達には、芸能事務所に所属している子なんて、一人もいない。てゆーか……。
「私みたいなド素人からしたら天上の人間だよ!」
「天上って、そんな、大袈裟ね」
「大袈裟なものですか! 後光が眩しすぎて、正直目も開けてらんないよ!」
「あはは。都ってば、面白い!」
何かツボに入ったようで、お腹を抱える愛菜。笑った顔も超かわいい。
「――ちなみに、候補生の三割が芸能事務所の所属だとか」
口を挟んだのは、愛菜の隣の席の人物。
「えーと、あなたは……?」
問いかけつつ、その子の外見をすかさずチェックする。
彼女は、優しそうなたれ目が印象的な女の子で、ファッションは愛菜同様フェミニン系。ブラウスの下にショートパンツを重ねることで、シルエットの印象をボーイッシュに見せている。足元は、素足にサマーブーツ。髪は黒髪ウェーブのロングヘアだ。
そして、愛菜同様、すごく可愛い。アイドル候補生って、皆こんな感じなの? やっぱり私、めちゃくちゃ浮いているんじゃなかろうか。
呆気に取られていると、たれ目の女の子が微笑を浮かべた。
「わたしは雨車歌乃です。よろしくね、都ちゃん」
「あ、こっちこそよろしく」
「歌乃とは、小学校の頃から同じ事務所でね。家族ぐるみの付き合いがあって、幼馴染みみたいな感じなのよ」
愛菜が補足する。
「幼馴染み――」
私とくーちゃんと同じだ。ついでに我が幼馴染みを紹介しようと、くーちゃんの方を伺うと、廊下の窓を見て他人行儀にしている。彼女の深刻な人見知りを理解している私は、声をかけるのを断念した。
視線を戻したところで、私はふと気付く。
「じゃあ、歌乃も劇団ハ二―ポップ⁉」
「一応、そうなるかな」
「ひぇっ、マジですか」
「歌乃はね、ミュージカル女優志望で、歌がとっても上手なのよ」
「愛菜ちゃんだって、子供の頃からドラマ出演してて、すごい演技力の持主なんだよ」
愛菜と歌乃がお互いを絶賛しあう。
そこには、女の子同士特有の見え透いたおべっかの気配はない。その真面目な声色からは、ふたりが純粋に互いの能力をリスペクトしていることが伝わってきた。
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