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「さて、これより、貴女方は、『チームアメジスト』として、皆で力を合わせ、魅力的なアイドルグループを目指していただきます」
「アメジスト、ですか」
誰かが呟く。視線をやると、さっき廊下で演説していた小柄な女の子だった。
「はい。それが貴女方のチーム名です。補足しますと、全てのグループに宝石にちなんだ名前が付けられています。他のグループ名は、『ガーネット』『サファイア』『トパーズ』『ペリドット』となっております。この中から、正式にアイドルグループデビューできるのは、一組だけ。皆さんが栄光を掴めるかどうかは、皆さん自身の努力次第と言えるでしょう」
ごくり。
候補生達がいっせいに生唾を飲む。
「……それにしても、随分小さな音声まで拾っているんですね?」
小柄な女の子が首を傾けた。
シェパードがこくりと頷く。
「なかなか良いところに気が付きますね、金丸旭さん」
女の子は、旭というらしい。チェックのシャツにデニムのショートパンツ、運動靴。黒いストレートの髪はワンレングスで、顎のラインで切りそろえている。メイクは薄め、あるいはノーメイクかも。童顔で可愛らしいけど、美人かといわれるとそこまででもない。総じてすごく普通の子って感じだ。私は勝手に親近感を覚えてしまう。
「映像は、室内前方天井部に設置された左右二台のカメラと、皆さんのお手元の小型カメラにて撮影しています」
シェパードはそう言うが、机の上にあるものといえば、ネームプレートと一体のぬいぐるみくらい。――あれっ、もしかして?
「この……犬のぬいぐるみが小型カメラだったりする?」
「正解です、結城都さん」
シェパードが両腕でマルを作ってみせた。
「無骨なカメラでは圧迫感があると考え、当企画用に特別に開発しました」
「へえ、凝ってる」
「可愛い」
ぬいぐるみを持ち上げたりして、はしゃぐ候補生達。
改めて、机の上のぬいぐるみを眺めてみる。画面の中のCGと同じデザインのシェパード。飴色の毛並みに、鼻頭と背中にまぶしたような黒紅色。シェパードといえば肉食獣の面影を残したカッコいい犬ってイメージだけど、目の前のこいつは二頭身にデフォルメされている上、虫も殺せないようなつぶらな瞳を光らせている始末で、肉食獣のDNAなんて完全に失っていた。
その瞳の中には、私の虚像が映り込んでいる。なるほど、両目がレンズになっているらしい。さしずめ、この小さいワンコは、CGシェパードの目の役割を担う手下ってわけだね。
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