結城都とチームアメジスト

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「さて、皆さん、早速ですが!」  CGシェパードは、仕切り直すように咳払いをひとつすると、心持ち声を張りあげて言った。 「これから、オリエンテーションとして、皆さんに自己紹介をしていただきます――」 ※  十七時。  シーリングライトが照らす室内に、五人掛けの丸テーブルが二卓。壁際に、おひとり様用の長テーブルの席もある。窓のない部屋に彩りを添えているのは、モダンアートのパネルやパキラの木。それに煉瓦の壁紙、アンティークオークのフローリング。  お洒落なカフェかと思った? いいえ、ここは、チームアメジスト専用の食堂なんです。  カウンターキッチンの向こう側では、調理スタッフが夕食の準備をしているのが見えた。彼らも例に漏れずサングラスをかけていて、割烹着の下にはスーツを着込んでいる。会社指定なのかもしれないが、ちょっと笑えるコーディネートである。  それはさておき―― 「ああ……、もうダメ」    私は、空気の抜けた風船のように、力なくテーブルに突っ伏した。  自己紹介は、散々だった。トーク力にはまあまあ自信があったけど、常にカメラが回っている状況下である。想像以上のプレッシャーがあった。頭が真っ白になってしまい、ちゃんと日本語を喋れていたかもあやしい。 「お疲れさま。はい、ハーブティー」    鈴を鳴らすような声とともに、湯気の立ったマグカップがテーブルに置かれる。  頭を上げると、愛菜が向かいの席に腰かけたところだった。 「ありがと。『あいにゃん』は優しいなあ」 「あいにゃんはやめてっ」    赤面する愛菜。  『あいにゃん』は自己紹介の中で決まった愛菜の愛称だ。ちなみに私は『みゃこっち』。歌乃は『かのかの』だ。愛菜は恥ずかしそうにしてるけど、いかにもアイドルって感じのネーミングは、個人的には満更でもない。
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