その4 オシラサマ

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 その直後、押し入れの下の段でゴロン、ゴロンと何か転がるような音がしたかと思うと、父が手を使った訳でもないのに襖がガラッと開き、父が転がり出てきたのです!  父は何故か、まいったなというような顔をして、何かブツブツとつぶやきながら、茶の間から東側に位置する寝室の八畳間へと入っていったのです。  子供のG氏は思わぬことにキョトンとしていましたが、心の中では、(父さんはひとを驚かすためにわざとやったのではないのか?)と思っていました。  そこで──、実は、そこからの記憶が少しあいまいなのですが・・・G氏も押し入れの下に入ったのが、その直後であったのか? それとも、その翌日の夜だったのか?  でも、まあ、いずれにしても、G氏も父と同様に晩の時刻に押し入れの下に入ってみたのです。  ただし、ちょっと怖かったこともあり、茶の間に父か母のどちらかがいるときに、しかも懐中電灯と座布団を持って中に入って襖を閉めたのです。  最初は、懐中電灯でオシラサマを照らして見ていたのですが、特に何の変哲もない人形のままでした。  G氏は(なあんだ)というように思い、座布団に寄りかかって目を閉じましたが、いつの間にかウツラウツラし始めたのです。  と、そのとき、まるでビックリハウスのように、G氏はその場で後方に1回転でんぐり返しをして(そんな狭い空間の中で自分の手も使わずにでんぐり返せたこと自体驚きですが・・)、アッと思う間もなく、ガラッと襖が開いて、外に放り出されました。  と、言っても乱暴な放り出され方でなく、かなり、スムーズに、しかも素早く押し入れから追い出されたのです!  G氏はあっけにとられたのか、ポカンと口を開けて、ちょっとの間、何も言えない状態でした。  そこで、確か、母がそれ見たことかと言いました。 「ホラ、そんなことをするから、オシラサマに追い出されたんだよ?」  ───良く考えてみると、母はどうしてオシラサマのその伝説?を信じ切っていたのでしょうか?  謎と言えば、謎です。  ***  それから、しばらくして、父が何故か押し入れの下のオシラサマのスペースを片付け、祠も取り外して、オシラサマを天井の方の神棚にお祀りしたのです。  そして、下の押し入れは、普通の押し入れとして使い始めました。  ***  やがて、年末が来たときに、大掃除で神棚にお祀りしてある大黒様や恵比寿様を下ろして、拭いて掃除していたときに、G氏は気づきました。 (あれ? オシラサマもお祀りしていたんじゃなかったっけ? どこにも無いけど??)  (その4・・・ 完)
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