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第11話
勇樹のパートナーの訓志さんのあまりの華やかさに圧倒された俺は、芸能人に会ったファンみたいに頬を赤らめ、身体の動きがぎくしゃくした。
「どうしたの? 健司。急に大人しくなっちゃって」
ディックは横で訝しそうだ。
「いえ……。訓志さん、何て言うか、一般人じゃないオーラ出てるから。モデルとかアイドルとか」
訓志さんは手を口元に当てて、おかしそうに目を細めて笑っている。当然、その薬指には勇樹とお揃いの指輪があった。
「うふふ、ありがとう。呼び捨てで良いよ。今はコミュニティカレッジでダンス講師をしてる、ただの一般人だから」
訓志の年齢はたぶんまだ二十代前半だろう。でも、臈たけた美貌と落ち着きから、積んできた人生経験がまるで俺とは違うように感じて気圧された。勇樹は、すかさず労わるような優しい声と表情で訓志の肩を抱き寄せる。
「急に降って湧いた俺の転勤についてきてくれて、訓志には本当に感謝してる。コネも全くないところから、実力だけでダンスをキャリアにしたんだから、君はすごいよ。俺の自慢のパートナーだ」
パートナーのキャリアアップのために、わざわざ日本からついてきたのか……。優しげな顔立ちとは裏腹の芯の強さと覚悟を知り、会社では敵なしのように見えた勇樹が、家ではパートナーの訓志に頭が上がらないのも分かる気がした。
目の前の二人は互いの人となりに深く惹かれ合っていて、心から愛し合っているということが、交わす眼差しやお皿を手渡すようなごく小さな仕草からも伝わって来る。タイプは違うけれど二人とも美形で、俺たちがいても全く気にせず、ごく自然に軽くキスしている。本当に絵になるカップルだ。
性的指向について、この場にいる誰一人何も口にしない。だが、勇樹と訓志が俺を招いてくれたのは、二人をありのままの姿で見て欲しいと思ったからだろう。
自分をありのまま人に見せられる自信と、それを受け入れてくれる友人。見目麗しくて、心から愛し合っているパートナー。いいなあ……。どれも俺が持っていないものばかりだ。
勇樹と訓志の馴れ初めや、勇樹と雄吾の学生時代の悪友振り、ディックが訓志と友達になった経緯など、聞きにくいけど気になっていたことはおおよそ聞けた。特に、訓志がとてつもない努力家だと分かり、俺は彼を尊敬した。高校を中退してアイドルを目指し、アメリカに来て語学力や職歴がない中、一歩ずつ道を切り開いてきたなんて。食事が終わっても話は尽きなかったが、俺の家が遠いことを気遣ってもらい、お開きになった。
「勇樹、訓志、今日はありがとうございました。お料理どれも美味しかったですし、お宅にまで招いていただけて、すごく嬉しかったです」
「いえいえ。また遊びに来てね」
可愛らしい笑顔で訓志が優しくハグをしてくれた。うわ、良い匂い……。
「じゃあディック、健司を頼むよ」
「うん、もちろんさ。じゃあ勇樹、また明日。訓志、今日はご馳走様。またね」
ディックは二人と握手をして、本條家を辞した。
「健司の家はバークレー駅の近く?」
「はい、そうです」
「サンフランシスコ空港まで送るよ。あそこなら駅も安全だ」
この辺りは通勤のピークタイムを逃すと電車が一時間に一本しかない。ディックはそれを心配して親切に申し出てくれた。
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