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六.
「旅行でも何でもどこに行こうと、確かにそれはあなたの自由ですがね。
いくらなんでも時期がマズいでしょう。
寝たきりの人を放っておいて旅行三昧なんて、いくらなんでも、ねぇ?」
と、中年刑事が冷たく鋭い鉄のような眼光で此乃美を見据える。
その刑事の背後で、若い衆が懐や腰の辺りに手をやり始めた。
あぁ、もう、なんだってのよ!
「何やってんのよ、此乃美!
なんであんな時に旅行なんか行ってんのよ!
あんたがあいつを見とく係だったでしょうが!」
「何よ!?
急に偉そうに!
眞乃歌だって全然一度も見にも来なかったじゃない!
どうせすぐ死ぬだろうと思ってたし、何日かちょっとだけ家を空けただけよ!
そしたら意外としぶとくてなんともない感じだったから、ついまた、ほんの何回か行っただけよ!
どうせすぐ死ぬんだし、そばにあたしがいてもいなくても結果は同じでしょ!?」
「だからってなんで浮かれた写真なんか堂々とネットに上げたりしてんのよ!
自意識過剰の自己顕示欲女が!
こんな時ぐらい我慢できなかったの!?」
「ほんの目と鼻の先に何十億が待ってたのよ?
多少浮かれて旅行なんかにも行きたくなるし、みんなに自慢したくもなるでしょ!?
だいたいあいつ、いつの間にあたしをフォローなんかしたのよ!
ふざけやがっ……」
「おい、続きは、法廷か、償いを終えてからにしてもらえるか。
醜くて聞いてられん」
再び此乃美の声を遮ったベテラン刑事の言葉に、一斉に若い衆が動いた。
素早く手錠をかけられ、それぞれに別々の車に押し込まれ連行されていく私たちを、家宅捜索のためにその場に残った警察関係者が、侮蔑の眼差しで見送った。
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