おくすり

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もう、これ以上薬を飲みたくない。 それが正直な私の気持ちだった。 母親の他界と異動先の不慣れな職場環境と人間関係が引き金となり、鬱を発症。 当初は肉親の喪失鬱がメインと見られ、まあすぐに治るでしょうとの見立てだった。 ところが、処方された薬を飲んでも一向に快方へ向かわない。 じゃあ、こっちの薬を試してみましょうか、との繰り返しで、飲む薬の量は雪だるま式に増えていく。 二週間に一回、仕事帰りに心療内科へ通院し、処方された薬を受け取って家に帰ると、夜の九時をまわっている。 袋詰にされた薬は、お薬手帳見開き分、ゆうに二十種類を超えている。 三度の食後と寝る前に、大量の薬を飲みながら、窓口業務をこなす。 正直、正気の沙汰じゃない。 まともに仕事ができるはずもない。 そんな私を、上司は腫れ物のように扱う。 毎日が針の筵に坐るようだった。
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