Toxic Waltz

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Toxic Waltz

「さとしくん、もう一度言ってくれ」 リル・デビルは半分呆れて、半分怒りの表情を聡に見せつけながら煙草を勢いよくふかした。 「話が大きすぎて、というかその手の大きなヤマが久しぶりすぎて耳を疑ってる」 「だから、プルトニウムだよ」 聡はスゲェだろ?と大物のカブトムシを捕まえた子供のような表情で続けた。 「チェルノブイリでゴミ漁りどもが掘り出してきたプルトニウムが原爆を10個作れるくらいはある。台湾のブローカーが仲買して、ブラジルのさる軍閥と話をつけた。その物流の一端をオレたち大木戸組がやることになったんだ」 近年(2040年)の台湾黒社会の発展ぶりは目を疑うものがあった。中国が戦争により内部崩壊、実質国が亡くなってから、大陸の大物犯罪者たちはほとんどがヨーロッパに逃げおおせた中で、台湾の悪党どもは大陸利権の奪取を図った。大木戸組どころか田尻会も足元に及ばないような巨悪、世界規模の政治、軍事、そして黒社会が交差するブラックホールのような暗黒空間のこぼれ落ちを、聡はすかさず手に入れてきたわけだ。 「お前相手にもこの話は全て説明できんが、仕事をやり遂せたら手間賃として3400万レアル(約10億円)がおれたちに支払われる。逃す手はない、が……」 聡はロングピースのパッケージの端を指先で叩きながら、話を続けた。 「一歩間違えりゃ、オレたち、いや、家族親戚からダチに至るまで全員バラバラ死体だ」 「あんた家族いないだろ」 デビルは呆れ顔で足をくるくると回しながら続けた。 「あたしも、いないようなもんだけど」 「そんなこたぁどうでもいい。この仕事を済ませるんだ」 聡は続ける。 「簡単な仕事さ。新潟にお宝を積んだ船が来るから、お前はそれをトラックで引き取って有明まで持ってくればいいだけだ」 「なんでわざわざ日本を経由するんだ?」 「簡単な話だ、ブラジルの奴らを面白く思わないのは?」 「インドだな」 「そりゃ、ウラジオストクあたりから船で一気にリオのアス港まで持っていくことも全然可能では在るさ。だが、インド軍の妨害が充分に考えられる。海の上で爆撃機に狙われることもありうる。だからそれなりの備えが必要なんだが……」 聡は言葉を続ける。 「それだけじゃない、ロシアと中国が崩壊、アメリカが実質何もできなくなった今でも、国際世論てのはまだ、ちーとは機能してるのさ。ブラジルだって軍艦を用意しちゃいるが、もしブラジルの軍艦がウラジオストクにいた、なんてのがリークされたらどうなる?」 「当然、怪しい動きをしてる国際社会に責められるね。ヨーロッパが滅んだわけじゃないし、アフリカやオーストラリアも近年力をつけている……何言われるかわかんない。天下のブラジルさんも、急には争いを起こす気はないだろうしね」 「そう言うことだ。だから、軍事同盟のある日本までどうにか持ってくるのが、商売の条件だ。ブラジルの軍艦が日本の沿岸まで来ても、軍事演習という名目が建てられる」 「だから、最近急に海上自衛隊とブラジル軍の合同演習が決まったわけか」 「そういうことだ」 聡はふう、とため息をついて煙草に火をつけた。 「お前の仕事は輸送トラックの護衛だ。明日の夜には新潟に船がつく、どれだけの妨害があるか、考えたくもないがそこから有明までなんとか凌げ。そうすりゃ、ブラジル軍と合流できて、俺たちの仕事はいっちょ上がりさ」 「距離にしておよそ、350キロか。運転手は当然ヘボじゃないだろうね?」 「あたぼうよ。今回のヤマは見返りがデカい分、入念な準備をしておいた。今回はアスピッドちゃんがくるぞ」 「おっ!あのスピード狂か」 デビルはウキウキしながら、嬉しそうにする。 「ただまあ、お前らが一番しんどいと思うけどな……」
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