リンリン(仮名)

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 姉は緩く巻いた髪をかき上げてにっこりと笑う。  これから男と旅行に行くのだという。 「え? なに? どこがどう犬なの? どう見ても少年だよね?」  姉に連れられてきた少年は、深く帽子をかぶって俯いている。 「リンリン、帽子をとって」  姉が言うと、少年は少し大きめのリボンがついたふわふわの帽子をとった。  顔に対して大きな、ふわふわの白い耳が淡い茶色の髪から立ち上がっている。  白い耳?  獣の耳だ!  外套を脱いでみれば、耳と同じ色の毛の長い尻尾があらわれる。 「ね、姉さん、これ……獣人じゃないか……」 「そうよぅ。リンリン、ご挨拶して」  少年は、姉に言われたように頭を下げると、投げやりに「どうも」と言った。  少年は尻尾を垂らしたまま、俺には興味なさそうに家の中をきょろきょろと見まわしている。 「どういうこと? どうしたの? 獣人なんて!」  今日の姉は今までの中で一番ひどい。  小動物なら何とかしてきたが、こんな大きな生き物を連れてくるなんて。 「友達が拾ったんだけど、全然懐かないからって預かってたのね。可愛いし。でも、やっぱり私にも全然懐かないのよねー。ちょっと噛みそうだし。獣人愛護法もあるから、捨てるわけにもいかないし……」  獣人愛護法によって、「拾った」獣人は飼うか、里親を探さなければならないと定められている。  違反した時の罰則が厳しいので、無闇に獣人を拾ったりしないで、獣人の集落に戻っていくのを待つのが普通だ。  拾うといっても、どうやってこんな大きな生き物を拾うんだ? 小動物でもあるまいし、と思っていたのに、実際やり遂げた人間の関係者が目の前にいる。  どうして拾ったんだ、お前の友人は? と尋ねるのもおぞましい。  厄介な隣人である獣人だが、その見た目の特徴と、一途な性質から、不埒な輩を中心に獣人を「保護」することが流行っていると聞く。  とやかく言うつもりはないが、付き合う友人は選んで欲しい。 「フラン、あんた、動物好きでしょ? 世話してやってよ!」  にこにこと悪びれずに言い切る姉は、厄介ごとを拾ってくる常習犯だ。 「俺は動物が好きなわけじゃないんだよ。どの口が言うんだよそれを? 世話ができないなら家に上げるなって毎回言ってるだろ!」
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