リンリン(仮名)

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リンリン(仮名)

「え? 冗談だろう?」  俺は思わず聞き返した。  ロンは俺を押さえつけてベロベロと顔を舐めてくる。 「いいよって言ったよね?」  言ったか?  言ったかもしれない。 「いやいやいや、まてまてまてまて」  ロンとの間に手をかざして、待てと繰り返す。 「わかった。待つよ」  素直に従ったロンは、俺から離れてベッドの上に腰を落として座る。  澄んだ瞳で俺を見る。  ずっと見る。  ひたすら見る。  尻尾、尻尾を振るな……。  赤く勃ち上がったものが切なげに震えているが、それでもロンは真っ直ぐ俺のことだけを見て、尻尾を振り続けている。 「……」  ずっと振ってる。  まだ振ってる。  俺がよしと言うまでやめない気だ。 「……」  確信を持った目で俺を見ている。  ……そんな目で見るな。 「……」  覚悟は出来た。  出来てる。 「……よし」  ロンは凄い速さで俺に飛びかかってきた。  ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ 「ごめーん、暫く旅行に行くから、リンリンを預かってくれない?」  俺の姉は思慮の浅い人間だ。  今に始まったことではない。  生まれながらの悪魔だと誰かが言っても俺は反論しないだろう。  社交的で、お人好し、お節介で、新しい物好きで、飽きっぽい、軽率で頭の悪い女だ。  後先考えずに色々なことを安請け合いする。  子どもの頃、メダカを貰ってきた時だって世話するのは最初だけで、後の世話は俺に押し付けた。  怪我した雀を拾った時は、珍しく熱心に看病したが結局雀は助からなかった。  ここまではよかったが、後が問題だ。死んだ雀が可哀想で見たくないからと、俺に墓を作らせた。  ハムスターを飼った時だってそうだ。夜行性だったとは知らなかったといって俺の家に置いていった。  屋台で売っていたヒヨコを押し付けられた事もあったな。  比較的寿命の長くない小動物なら俺が最後まで面倒を見てやった。  規則的な世話をしてやれば寿命を全うして、俺の肩の荷は降りる。  犬猫は飼うわけにいかないから、辛抱強く良い飼い主を見つけて、譲り渡してきた。  全然良くないけれど、今起きているこの状態よりは全然マシだった。   「姉さんさ、犬を預かってくれって言ってなかった?」 「言ったわよ! 可愛いでしよ? リンリンていうの!」
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