第十一章 愛する人を、救いたい

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「なっ……」  エマヌエルが、顔色を失う。グレゴールは、軍人たちに短く命じた。 「連れて行け」  彼らがいっせいに、エマヌエルを取り押さえる。グレゴールは、補足するように言った。 「なおベネディクト殿下におかれましては、クリスティアン王太子殿下殺害未遂の、証拠も挙がっております。極刑も、お覚悟を」 「何だと! あの呪いは……」  言った後で、エマヌエルはハッと口を押さえた。グレゴールが、にやりとする。 「エマヌエル様も共犯でいらした、しかとこの耳で聞きましたぞ」  軍人らがエマヌエルを立たせ、連行しようとする。その時、地下室に、ふらふらと一人の女が入って来た。  カロリーネであった。なぜか、顔が傷だらけだ。彼女は、部屋の隅にちょこんと丸まっているセシリアをにらみつけた。 「この猫め! よくも……」  どうやら、セシリアにやられたらしい。そんなカロリーネに向かって、エマヌエルが怒鳴った。 「呪いのことをグレゴールに漏らしたのは、まさかお前か。カロリーネ!」 「そうよ!」  ヒステリックに、カロリーネがわめく。 「どうしても、この女を元の世界へ追っ払いたかったのよ! 呪いの証拠を渡せば、儀式の方法を記した本をくれると、グレゴールが言うから!」 「馬鹿か、お前は! 自分で自分の首を絞める気か!」 「お兄様だけには、馬鹿と言われたくありませんわよ!」  兄妹は、醜く言い争っている。  「この女……ハルカさえいなければ、グレゴールは私の方を向いてくれるわ。だから、今すぐ実行してやる!」    言いながらカロリーネは、背後に隠し持っていた物を取り出した。私は、あっと思った。それは、例の本だったのだ。  カロリーネが、本を開く。だが、そこへグレゴールの声が響いた。 「ご自由に」 私は、思わずグレゴールを見つめた。彼が、静かに続ける。 「呪文を唱えたいなら、お好きなだけどうぞ。時間の無駄ですがね。この本は、偽物です」 「う……そ……」  カロリーネが、青ざめていく。グレゴールは、彼女の手からスッと本を取り上げた。 「あいにく、あなたのお気持ちには応えられません。私が愛しているのは、ハルカです。ですが、仮に彼女の存在が無かったとしても、あなたを愛することは無いでしょう」  私は、耳を疑った。 (ちょっと待って。真ん中に、とんでもない台詞が挟まらなかった……?) 「待って、グレゴール……」 「エマヌエル、カロリーネ両殿下を投獄するように」 カロリーネの言葉を遮って、グレゴールが軍人らに命じる。彼らは心得たとばかりに頷くと、二人を連れて出て行った。
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