第十一章 愛する人を、救いたい

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 二人きりになると、グレゴールは私に駆け寄り、抱き起こした。 「どうしてここが?」 「聖獣たちのおかげだ」  グレゴールは、ウォルターとセシリアを指した。 「彼らが、ハルカに危険が迫っていると、マキ殿に伝えてくださったのだ。彼らの先導で、ここへ駆け付けた。非常時には、壁を通り抜ける力もお持ちなのだそうだ」 「そうだったんですね……」  私は、二匹の頭を撫でてやった。グレゴールが、せかせかと尋ねる。 「大丈夫か? エマヌエルにはどこまでされた? そもそも、なぜ王都へのこのこ戻ったんだ?」 「えっと……。頭を殴られましたけど。エマヌエル様には、まだ何も。ここへ来たのは、メルセデス様を装った偽手紙に騙されて……」  自分でも頭を整理しながら、言葉をつむぐ。グレゴールは、目をつり上げた。 「偽手紙だと? 詳しく聞きたいが、先に医者だな。あの二人の罪状には、暴行罪も加えるとして……」 「ちょっと待ってください!」  私は、グレゴールの言葉を遮った。 「さくさく進めないでください。大体、何ですか。あなたばっかり質問して。私だって、聞きたいことはあります。その……」  途中で私は言いよどんだ。いざグレゴールと向き合うと、質問する勇気が出なかったのだ。 (私を愛しているって、本当に……?) 「お前を愛しているという言葉なら、あれは本音だ」  私は、ハッと彼の瞳を見つめた。 「最初は、確かに殿下の側妃に差し出す目的だった。お前は器量が良いから、珍妙な言動さえ矯正すれば、きっと気に入っていただけるだろうと踏んだのだ」  グレゴールは、淡々と語った。 「俺のその計画は、実に順調だった。外見も内面も磨いて、いっそう魅力的になったお前を、クリスティアン殿下はたいそう気に入ってくださった。狙い通り……、だったはずなのに。何だかこう、もやっとするのだ」  グレゴールは、自らの胸を押さえた。 「俺は鈍いから、なかなか自分の気持ちに気付けずにいた。いや、気付かないふりをしていただけかもしれない」  グレゴールが、微苦笑を浮かべる。 「お前が離宮の裏庭で、エマヌエルに触れられていた時、無性に苛立った。強情な俺は、それでもお前への恋心を認められなかったのだが……」  でも、とグレゴールは照れくさそうに続けた。 「お前がクリスティアン殿下に、ギュウドンを振る舞っていた時。俺が食べさせてもらったことの無い料理を、殿下が先に召し上がったことが、ひどく悔しくてな。それで、ついに認めざるを得なくなったというわけだ」  もしかして、と私は思った。 (私が料理ができるという話、殿下にはわざと伏せていた……?) 「お前の作る料理を、俺は他の男に食べさせたくなかったんだ。だから、殿下には黙っていた」  私の疑問を見透かしたように、グレゴールは言った。
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