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「あれから俺は、ひどく葛藤した。主君に差し出す目的で育てた女に、自分が惚れてしまうなんて、と……。しかもクリスティアン殿下は、お前を気に入られている。そして、お前の方も……」
「え、ちょっと待ってください!」
私は、眉をひそめた。
「なぜ、私が殿下を好きだと思われたのです?」
「側妃を目指すと言ったではないか。仕事という、他の選択肢を示したにもかかわらず」
そういうことか、と私は合点した。
「違います。クリスティアン殿下のことは尊敬申し上げていますが、それは恋愛感情ではありません」
グレゴールの目を見てきっぱりと告げれば、彼は目を見開いた。私は、勇気を振り絞って続けた。
「わ、私が好きなのは……、グレゴール様です。でもあなたはあの時、仕事と側妃という二つしか、選択肢をお示しくださいませんでした。あ、あなたと結ばれないのなら、せめて近くにいられる方をと……」
「ハルカ……」
次の瞬間、私はグレゴールに抱きしめられていた。彼が、私の耳元で低く呟く。
「ずっと、お前を自分のものにしたかった」
私は、息を呑んだ。でも、と彼が続ける。
「王太子殿下がお気に召している女を、家臣の俺が娶るわけにはいかなかった。だからといって、他の男にやるつもりも、毛頭無い」
「それで、仕事を、と……?」
ああ、とグレゴールが頷く。
「書斎で言いかけていたことの続きを、今言おう。元の世界へ戻せると知った後も、俺が黙っていたのは、お前が恋しかったからだ。自分のものにできなくても、この世界へ置いて、その姿を見ていたかった」
グレゴールも私と同じことを考えていたのか、と私はただ驚いていた。
「卑怯なのは、わかっていた。ここへ来れてよかったとお前が喜んだ時は、罪悪感で胸が痛んだ……」
そういえばそう言った時、グレゴールは当惑した表情を浮かべていた、と私は思い出した。
「ハルカ、お前を愛している。努力家なところ、他人への思いやり、素直な感情表現。何もかもが、可愛らしくて仕方ない」
私を抱きすくめたまま、グレゴールが告げる。私もです、と私は呟いた。
「王都へ戻ったのは、あなたが投獄されたと、嘘を聞かされたから。私が元の世界へ帰れば、グレゴール様は極刑を免れると言われて、決意したんです。あなたを救いたいって……」
私は、最後まで喋れなかった。グレゴールに、唇を塞がれたからだ。やや厚めの彼の唇が、貪るように私のそれを食む。私は、腕を伸ばしてグレゴールの背にすがっていた。
(幸せ……)
眩暈がするくらい、心地良い。心から、気持ちが通じ合っているせいだろうか。
グレゴールは、角度を変えて執拗に口づける。聖獣たちが静かに見守る中で、私たちは、蕩けるようなキスを何度も交わしたのだった。
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