第十二章 プロポーズがすっ飛ばされてます?

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第十二章 プロポーズがすっ飛ばされてます?

 その後の処理は、グレゴールが中心となって、スムースに進んでいった。ロスキラの反対勢力に囚われていたマルガレータ王女は、無事救出され、イルディリアは彼女を温かく迎え入れた。同盟も、成立する見込みである。  そして王弟ベネディクトには、イルディリア王国への反逆及びクリスティアン王太子の殺害計画首謀者として、極刑が言い渡された。現在は、執行を待つ身である。  またエマヌエルは、それらに加担したとして、爵位剥奪の上、生涯幽閉の身となることが決定した。カロリーネに関しては、呪術の証拠を流して協力したことが考慮され、修道院入りというやや軽い処分に留まった。  私はといえば、ハイネマン邸へ戻って、しばし療養を続けた。頭の傷は、大したことはなかったのだが、グレゴールがやたらと心配したためである。これまで放ったらかしにしていた詫びだと言って、彼は少しでも時間ができると、部屋にやって来ては私を構いたがった。  その朝も、グレゴールは早くから部屋へ飛んで来ると、体調はどうかとしつこく尋ねた。 「無理はしなくていいぞ?」 「大丈夫ですって。それに、クリスティアン殿下のご結婚は、お祝いしたいです」  今日は、クリスティアンとマルガレータの結婚式なのである。早期に終息したとはいえ、戦争で国民の命が奪われたことを鑑みて、教会で挙式するだけの簡易なものに留めるそうだ。 「それならいいが。無事この日を迎えられて、俺もひと安心だ。お世継ぎの件も、心配は無さそうだしな」  グレゴールが、ふうとため息をつく。王女が体が弱く、子を成せないかもしれないというのは、結婚反対派が流した嘘だったのだ。実際の王女は、健康そのものだそうである。  そこへ、ノックの音がした。顔をのぞかせたメルセデスは、弟を見て呆れ顔をした。 「おはよう、ハルカ……、って、また来ていたの、グレゴール? 仕事はちゃんとしているのかしら?」 「ずっと屋敷にすら帰って来れなかったのですから、その分を取り返したいのですよ」  グレゴールは、しれっと答えた。  舞踏会以来、グレゴールが不在がちになったのは、軍部を取り込もうと奔走していたためだった。以前言っていた、ベネディクトに対抗する他の手段とは、これだったのである。元々軍部の中には、ベネディクトへ不満を抱く者が多かった。おかげで、戦争が始まった際も、あっさり寝返らせることができたのだそうだ。  そして、王女誘拐事件勃発後、グレゴールがカロリーネと会っていたのは、呪いの証拠を入手するためだった。彼女が、引き換えに私を元の世界へ帰せと主張したため、グレゴールはヘルマンに命じて、偽の本を用意させたのである。まんまと本物と信じたカロリーネは、父親が所持していた呪具をくすねて、彼に渡したのだとか。  ちなみに内容は、呪文がデタラメであるだけでなく、儀式用の道具も、実際には使用しないものだという。入手しにくい品を大量に羅列して、カロリーネがそれを集める間、時間稼ぎをしようという計略だった。 『それでも、俺は不安でな。カロリーネがお前に手出しをするのではないかと……。王都から離れた場所へやったのは、戦争だけが理由ではない。それなのに、戻って来てしまって……』  その時のグレゴールは、なんとも言えない表情を浮かべたのだった。
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